3日に行われた体操男子種目別決勝鉄棒で、橋本大輝が金メダルを獲得した。
ラストの伸身の新月面宙返り、167センチの体が高く、大きく前へと舞った。着地はマットに吸いつくようにぴたり。15・066点で、橋本大輝が個人総合に続き今大会2個目の金メダルに輝いた。
「鉄棒で冨田洋之さん、内村航平さんが最後、着地を決めて逆転するのを見て、人の心を一番動かせる種目だと思っていた。前は苦手だったけど、着地を止めることにこだわってきて、自分の成長を感じた」
冬場の練習で両手にはめるプロテクターが切れかかり、しばらく「一歩間違えば大けがをしてしまう」と恐怖心が抜けなかっただけに喜びはひとしおだ。
内村からエースのバトンを引き継ぐかのような活躍に、水鳥寿思(ひさし)監督は「(世代交代が)間に合うかギリギリのところでつなげた。希望になった」とうなずく。今大会の事前合宿では内村が若手に積極的に声を掛ける姿が見られたという。
それは橋本自身にとって大きな財産だ。「五輪は難しいところだと思う。どういう練習、気持ちで持っていくか一番知っているのは内村さん」と敬意を寄せ、その一方で「頼りすぎても僕らは駄目。自分たちも戦えるんだと自信を持って準備したい」と自覚を語っていた。
この言葉からも分かるように、橋本の長所は素直さと野心が、うまく同居していることだろう。3人兄弟の末っ子で、小さい頃から5つ上と3つ上の兄とぶつかり合うことは少なくなかった。両親は、ある程度のいさかいには目をつぶり、「どうしたいか、自分で動いて、言葉にする力」を養ってきたという。この素地があってこそ急成長は実現した。
日本選手が五輪で個人総合と種目別の2冠を成し遂げたのは1984年ロサンゼルス五輪でつり輪も勝った具志堅幸司以来37年ぶり。鉄棒と合わせて達成したのは史上初めてだ。
注目を一身に集めるようになった19歳は、こう語る。「航平さんは何度も世界チャンピオンになっている。僕はその土俵に立てる一段目を上っただけ。『体操のチャンピオンは内村航平だ』とずっと言われていた。それくらいにならないと同じ立場になれない」。目指す未来は大きく、とても魅力的だ。
(宝田将志)