自動運転の責任は誰か 法整備進まず導入足踏み

自動運転「レベル3」を実現したホンダの新型「レジェンド」
自動運転「レベル3」を実現したホンダの新型「レジェンド」

世界各国で開発・導入競争が進む乗用車の自動運転をめぐり、特定条件で運転手なしの自動運転を認める「レベル4」突入を前にして、日本の導入が足踏みしている。事故が発生した際に責任を負うのが車の持ち主なのか、開発者なのか、メーカーなのか、法的整理が進まないためだ。専門家は「議論を加速させなければ、開発が遅れかねない」と警鐘を鳴らしている。

先行するドイツ

今年3月、ホンダは市販車では世界初となる渋滞時の高速道路でシステムが走行を担う技術を搭載した「レジェンド」を発売。自動運転で世界の競争のトップの一つに躍り出た。

自動運転をめぐり、日本は令和4年度には地域限定で無人の自動運転移動サービスを実現し、7年度ごろには世界に先駆けて一定の条件下で自家用車レベルにも普及させることを目指している。

ただ、ホンダが発売したのは運転手が必要に応じて操作を行うのが前提で、技術レベルによって5段階に分けられた自動運転の「レベル3」。運転手が不要になるレベル4については導入が進んでおらず、法的な整理もついていない。

レベル4で先行する国の一つがドイツだ。ドイツは5月、レベル4の自動運転にも対応するよう道路交通関係の法改正案を可決。次のステップに向けてアクセルをふかし始めている。

自動運転に詳しい弁護士は「社会から受け入れられないと、自動運転を実装することはできない」と話し、日本で法的な整理が進まないことに危機感を募らせる。

プログラマーに責任?

自動運転で法的に最大のネックとなっているのが、交通事故が起きた場合の責任を誰が負うか決まらないことだ。

事故を回避するはずの自動運転ソフトを開発したプログラマーなのか、そのソフトを車に搭載したメーカーなのか、車を管理する所有者なのか。問題は多岐にわたる。

事故を起こして人にけがをさせた場合、通常の交通事故で適用されてきたのは自動車運転処罰法違反(過失致死傷)罪だが、罰則の対象は運転手だ。検察OBは「プログラマーや管理者を従来の運転手と同等であると解釈し、適用するのは難しいだろう」と指摘し、同法の適用を疑問視する。

代わりに適用される可能性があるのは、鉄道や航空機による大規模な事故や医療過誤などに適用される業務上過失致死傷罪だ。検察OBは「プログラマーのほか、車の運行管理者が処罰される可能性もある」と指摘。検察幹部も「過失が原因で事故が起きたのではあれば、従来と変わらない捜査が可能であるし、現行法で対応可能だ」とみる。

道交法を所管する警察庁が今年3月にまとめた「自動運転の実現に向けた調査研究報告書」では自動運転時の事故の責任を問う相手を「自動運転移動サービスの運行を管理する者とすることも可能ではないか」とする専門家の意見を紹介している。

ただ、「システム自体の欠陥が原因で違反や事故が起こった場合は例外的な考え方が必要かもしれない」として、管理者以外を問う可能性を指摘する意見も。自家用車を借りた人が事故に遭った場合、運行管理者は所有者なのか、車を借りた人なのか、など議論は噴出し、結論は持ち越された。

どちらを救うか問われる倫理観

開発を担うメーカー側が将来的に解決すべき課題は法律だけではない。倫理観も問われている。

《自動運転の車が分岐路にさしかかったとき、正面には子供が1人、右前方には高齢者2人が歩いている。どちらにしても事故は避けられない場合、車はハンドルをどう切るべきか》

レベル4以降では、これまで個人個人が倫理観を問われてきたこのような選択が生じる。分岐するレールを走るトロッコの事故を題材に議論が始まったことから、「トロッコ問題」とも呼ばれる。

ドイツでは2017年、こうした倫理上の問題を整理する原則を政府が公表。システムは事故の最小化を目指すのみで、倫理的な判断をすることは許されない、と結論付けたが、日本では議論が進んでいない。

自動運転に詳しい弁護士は「事故が起きたときには被害者がおり、関心を集めるのは刑事責任だ」と指摘。「責任を問われるのは従来通り個人であるべきなのか、法人も罰せられるべきなのかも含めて議論を深めてほしい」と訴えている。(吉原実)