がん電話相談から

肺がんが転移 分子標的薬で完治できるか

Q 58歳男性です。昨年7月、定期健診の採血で腫瘍マーカーの数値が上昇。精密検査を受けたところ、肺の左上葉部に非小細胞肺がんが見つかり、手術前はステージⅠと診断されました。左上葉部を切除後、リンパ節転移もあったことが分かりました。再発予防のため化学療法を受けましたが、今年3月、磁気共鳴画像装置(MRI)検査で脳、陽電子放射断層撮影(PET)検査で頸椎(けいつい)、腰椎、左右の大腿骨、肋骨への転移が見つかりました。

A 手術前の検査では目に見えるような転移はなく、ステージⅠなので手術が標準的治療です。しかし手術で、切除したリンパにまでがんが入り込んでいることが分かりました。これは珍しくはないのですが、再発の可能性が高くなったと考えます。このため、何とか再発を予防できないかと考えるわけですが、どこで再発するかは分からないため、再手術や放射線治療はできません。そこで薬(抗がん剤)による治療で潜在的ながんを抑えようということになります。術後の再発予防に使われるのは、点滴の抗がん剤であり、化学療法により再発のリスクを少し下げることが期待されます。この治療法は過去のデータで効果が裏付けられており、よい選択でした。

Q それでも、再発は抑え込めないのですね。

A 再発のリスクは100%抑え込めるものではありません。とくにリンパまでいっていれば再発の可能性の方が高くなるのです。残念ながら脳や骨に転移が見つかったということですが、理屈では以前から存在していて目に見えなかったものが見えるようになったと考えます。他にもがんが潜んでいる可能性が高く、今後他の転移が出てくることも考えられます。そのため、特定の場所ではなく、全身の治療の方がよいということになるでしょう。

Q 4月から「オシメルチニブ(商品名・タグリッソ)」を服用しています。

A オシメルチニブは、分子標的薬である「EGFR-TKI(チロシンキナーゼ阻害薬)」の一種です。細胞の増殖にかかわるタンパク質として知られる「EGFR遺伝子」の変異が陽性であったことが確認されていますので、EGFR-TKIの効果が期待できます。複数あるEGFR-TKIの選択肢の中で、オシメルチニブは現状では最良の薬といえるでしょう。ただ、この薬だけで根治することは難しいと考えています。何年も効果が続く患者さんもいますが、1~2年後に薬の効き目が落ちてくる患者さんが多いのです。このため、さらに効果を改善するために、新しい薬やさまざまな治療と組み合わせて効果を上げる研究が進められています。

Q 主治医には「完治はおそらく無理。がんと共存し生活できるよう頑張りましょう」と言われました。

A 完全にがんが消失したように見えても再燃しないとは言い切れず、オシメルチニブによる治療は継続するため、「根治はしない」という言い方になります。インスリンが必要な糖尿病や降圧剤を続ける高血圧症でも治療を継続する必要があり、根治したとはいえないのと同じです。

Q 現在の主治医には他にも厳しい見通しを告げられています。

A 主治医は将来を先読みして「こうなるかも」というお話をされているのかもしれません。安易に「治してあげる」と言わずに正直にお話をされている医師のようなので、逆に信頼してもよいのではないでしょうか。

回答は、がん研有明病院呼吸器センター長の西尾誠人医師が担当しました。

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