勇者の物語~「虎番疾風録」番外編~田所龍一(281)

西宮決戦 広岡監督の「奇策」の前に…

〝左殺し〟の異名をとった西武の永射(左は広岡監督)=西宮球場
〝左殺し〟の異名をとった西武の永射(左は広岡監督)=西宮球場

■勇者の物語(280)

ペナントレースに話を戻そう。4月最下位だった上田阪急だが、5月に14勝7敗2分けと一気に順位を上げ、広岡西武との激しい首位争いを演じた。そして終盤の6月23日、首位西武に1ゲーム差で「西宮決戦」を迎えた。

前期の〝天王山〟。マウンドを託されたのはルーキー山沖。若い力のあるタマで中盤まで乗り切り、リリーフに山田を投入して逃げ切る―これが上田監督が描いた作戦。だが、試合前に〝事件〟が起こった。なんと西武が、松沼兄弟か高橋直か―という大方の予想に反して、この年、ワンポイントリリーフに使っていた〝左のサイドスロー〟永射を先発に立ててきたのだ。

「えっ、ホンマか? まさか永射が先発とは…」。動揺する阪急ベンチ。広岡監督の〝奇策〟にメンバー表を見た上田監督も思わず息をのんだ。

◇6月23日 西宮球場

西武 510 000 320=11

阪急 000 100 300=4

(勝)永射3勝1敗4S 〔敗〕山沖3勝7敗1S

(本)立花①(山沖)石毛⑧(山沖)テリー⑨(宮本)河村①(永射)中沢⑤(永射)

こんな大事な試合でなぜ…。広岡監督には確信があった。

「阪急は福本の出塁いかんで勢いが決まるチーム。あの足を封じておいてウチが先制する。先に勢いに乗ってしまえば勝てます」

広岡監督は6月21日の近鉄―阪急戦(藤井寺)で、阪急が井本に9回5安打2点に抑えられて敗れたのを知ったとき、この日の「永射先発」を決意した。試合は広岡監督の思惑通りに進んだ。

立ち上がり制球に苦しむ山沖から一回、安打と四球で1死一、二塁とし大田が中前へ先制のタイムリー。さらに片平が四球で歩いた満塁で立花が初球を右中間スタンドへ今季初ホーマーを叩き込み一挙5得点。永射も期待に応えて6回⅔を7安打4失点。ついに西武に優勝マジック「2」が点灯した。

「勢いに乗ったらこんなもの。マジック2ですか、もう問題ないでしょう」

勝ち誇った広岡監督のすまし顔が憎らしい。(敬称略)

■勇者の物語(282)