正論9月号

戦後76年と歴史戦 インドネシア慰安婦強制の虚構 近現代史研究家 阿羅健一×日本近代史研究家 田中秀雄

4月27日午前、閣議に臨む菅義偉首相(中央)。この日の閣議で「従軍慰安婦」や「いわゆる従軍慰安婦」という表記は不適切だとする答弁書を決定した=首相官邸(春名中撮影)
4月27日午前、閣議に臨む菅義偉首相(中央)。この日の閣議で「従軍慰安婦」や「いわゆる従軍慰安婦」という表記は不適切だとする答弁書を決定した=首相官邸(春名中撮影)

※この記事は、月刊「正論9月号」から転載しました。ご購入はこちらをクリック

阿羅 戦後七十六年の夏を迎えました。菅義偉政権は今年四月、中学の歴史教科書記述に〝復活〟した「従軍慰安婦」という言葉について「政府として今後は使わない」という新たな方針を閣議決定しました。実は「従軍慰安婦」という言葉は平成五年の河野洋平官房長官談話に盛り込まれていて、これが根拠となって教科書から一掃されずにいました。今後、教科書記述に「従軍慰安婦」という文言は使用できなくなりました。歴史戦や教科書記述という観点でいえば、画期的な出来事だったといえます。

ただ、政府は河野談話は継承するとも強調しています。改めて河野談話がもたらす様々な弊害を考えると、日本の歴史がどう認識されているか、日本が国際社会でどう誤解されているか、といった問題は見逃せません。例えば対日非難決議が議決され、慰安婦像などが建てられるといった出来事があるたびに、河野談話はその根拠として利用され、蒸し返され続けています。国内の実害の柱となっていた教科書記述は、是正が図られる見通しとなりましたが、課題は残っているわけです。 それに河野談話には、慰安婦の募集について「官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった」という表現が依然としてあります。政府は「強制連行を裏付ける証拠は確認できなかった」と慰安婦の強制連行を明確に否定する一方で、官憲による強制連行が存在したと認めたかのように読める記述が温存されているのです。

談話自体は朝鮮半島をめぐる話として作成されたものです。ところが、この「官憲」云々の件だけは、インドネシアで起こった白馬事件(スマラン慰安所事件)が唐突に持ち出され、盛り込まれてしまっているのです。

いうまでもなく、白馬事件とは日本軍占領中のオランダ領東インド(現在のインドネシア)で日本軍の軍令を無視した一部の軍人によってオランダ人女性が慰安婦にされた出来事といわれています。朝鮮半島と関係のない出来事が持ち出されてまで「官憲の関与はあった」「強制連行、強制性があったと日本政府が認めた」などと根拠づけられて日本が貶められるのは、とてもいびつで理不尽な光景です。

なぜそんな談話になったのか。正論七月号では西岡力麗澤大学客員教授がこの点を掘り下げています。当時の外務省や官邸の外政審議室にいた官僚たちの判断でこの文言が盛り込まれた経緯を指摘しています。河野談話を〝上書き〟し、事実を周知することで談話に宿る理不尽を正すよう求めています。

私は同時に改めてインドネシアの白馬事件についても見つめ直すことが必要だと感じています。のちほど詳しく述べますが、インドネシアもまた朝鮮半島と同様、史実が歪められ、日本を貶める歴史解釈が持ち込まれた歴史戦の舞台だったと考えているからです。

田中 私は最近、『スマラン慰安所事件の真実』(芙蓉書房出版)を出版しました。はじめになぜ、私がこの本をまとめたのか、という点からお話ししましょう。今、阿羅さんが指摘した、河野談話にある「官憲の関与」という表現ですが、これが朝鮮半島における慰安婦を指す表現ではなく、実はインドネシアで起こった「スマラン慰安所事件」を指すことは談話発表当時、私も耳にしました。その時は「そうか。だったら日本軍は弁解できないのだな」と私自身もそう思っていました。

ところが、たまたま、事件の首謀者として処刑された岡田慶治少佐が獄中手記(写真)を残していたことを知り、遺族から手記を見せていただく機会に恵まれた。それで手記を読むうちに、事件に対するそれまでの認識が変わっていったのです。

事件の詳細は後程話しますが、手記を読むと岡田少佐が実に明るく男らしい方だとわかります。女性にも好かれ、リー

ダーとしての資質も備えている。軍人という階級社会にも縛られずに上層部にもいうべきことは遠慮なく意見する、といった人柄に私はまず好感を持ちました。

岡田少佐は、事件の責任を負って処刑されました。私は岡田少佐の手記をきちんとした形で出版したいと考えるようになりました。それが日本のためになるだけでなく、岡田少佐の名誉回復にもつながると考えたからです。

阿羅 私も平成元年から十年まで毎年インドネシアに渡って十日間ほど旧日本軍の方々とともに調査を重ねました。ですが、この白馬事件については当初から「決着がすでについている問題だ」と受け止められている印象がありました。


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「正論」9月号 主な内容

【特集 令和の安全保障考】

日本の軍事力増強が台湾・尖閣有事を防ぐ㊤ 前内閣総理大臣 安倍晋三×元陸上幕僚長 岩田清文×元内閣官房副長官補 兼原信克

「抑止」重視へ変革する米海兵隊 元陸将・ハーバード大学上席研究員 磯部晃一

台湾防衛戦略 米国の出方を読む ハドソン研究所研究員 村野将

デジタル安保構築で日米同盟強化図れ 慶應義塾大学教授 手塚悟

米中の法律戦と立ちすくむ日本 株式会社アシスト社長 平井宏冶

【特集 政治にモノ申す】

求む、決断できる非常時型指導者 評論家 潮匡人

「挙国内閣」こそ回天の大事業だ 元産経新聞社専務論説委員長 吉田信行

統治機構改革で国民の信を問え 慶應義塾大学教授 松井孝治

「第三臨調」創設せよ 国家のモデルチェンジ急げ 政策シンクタンク代表 原英史

自民の〝立憲化〟は百害あって一利なし 「政界なんだかなあ」特別版 産経新聞政治部編集委員兼論説委員 阿比留瑠比

小沢一郎と共産党を自民党はあなどるな 元内閣官房長官 熊谷弘

【特集 人権弾圧国家・中国】

「在日ウイグル人証言録」本誌で連載する理由 評論家 三浦小太郎

<証言1>ムハラム・ムハンマド・アリ「いなくなって変わり果てた父」

<証言2>アブドウラー(仮名・男性)「いつ誰がどうなるかわからない

<証言3>グリスタン・エズズ「無事という連絡すらできない」

さようなら自由なる香港 在日香港人 ウィリアム・リー

香港で現代の文革が始まった 静岡大学教授 楊海英

台湾問題は新たな局面に チャイナ監視台 産経新聞台北支局長 矢板明夫

戦狼の大国に腰据えて臨め 国際ジャーナリスト 安部雅延

【特集 朝鮮半島情勢】

北でうごめく反金正恩のマグマ 関東脱北者協力会代表 木下公勝

韓国大統領選で飛び交う「腐敗、無能、国民略奪」 「朝鮮半島藪睨み」特別版 産経新聞編集委員 久保田るり子

【特集 戦後76年と歴史戦】

韓国と反日日本人に洗脳されたユネスコ 一般財団法人「産業遺産国民会議」専務理事・産業遺産情報センター所長 加藤康子

今に生きる「英霊の遺書」 ノンフィクション作家 早坂隆

インドネシア慰安婦強制の虚構 近現代史研究家 阿羅健一×日本近代史研究家 田中秀雄

連載「昭和の大戦とあの東京裁判」を読み終えて 「独立国家の面目」問うきっかけに 成城大学名誉教授 牧野陽子

GHQ洗脳に加担したメディアは懺悔せよ 大阪市立大学名誉教授 山下英次

やはり怪しい共産党・民青のフードバンク 元板橋区議(元日本共産党区議団幹事長) 松崎いたる

戦後最悪の国語改革 読むことは情報処理にあらず 文藝評論家、国語教師 前田嘉則

「つくる会」の迷走を憂う 本誌編集部 安藤慶太

夫婦別姓めぐる法廷論争は終わり 「フロント・アベニュー」特別版 麗澤大学教授 八木秀次


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