世界の論点

「南シナ海裁定」から5年

裁定から5年となるのを前にドゥテルテ政権ではロクシン外相が「(裁定を)弱体化させたり、人々の記憶から消し去ろうとしたりする試みは断固拒否する」と、意義を強調する声明を発表した。だが、オンラインメディアのラップラーは7月15日付の記事で専門家の言葉を引用し、「強気の言葉にともなう行動が必要である」と批判を加えた。記事では、ドゥテルテ政権は「中国を怒らせることを拒否している」と指摘。「他のすべての国がそのことを知っている。私たちは5年間を失ってしまった」と中国に弱腰な姿勢を非難した。

フィリピンメディアは憂慮を深めているが、ドゥテルテ氏に聞き入れるそぶりはない。ドゥテルテ氏は憲法規定で来年の大統領選に出馬できないが、副大統領としての権力維持を模索している。「失われた5年」はさらに継続する可能性がある。(シンガポール 森浩)

中国 米国の計略に引っ掛かるな

南シナ海における中国の領有権主張を全面否定した裁定が下されてから5年が過ぎたが、中国は今も判断を受け入れていない。

中国外務省の趙立堅(ちょう・りつけん)報道官は7月12日の記者会見で、米国に対し「南シナ海の領土主権と海洋権益の争いを下心を持って引き起こし、地域国家間の関係を挑発し、地域の平和や安定を破壊する極めて無責任なものだ」と強調した。ブリンケン米国務長官が「南シナ海ほどルールに基づく海洋秩序が脅かされている地域はない」と中国を非難した声明に反発したものだ。その上で趙氏は、同判断について「紙くず」という5年前と同じ言葉で非難した。

7月13日付の中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報は「南シナ海の域内国家は決して米国の計略に引っ掛かってはならない」と題した社説を掲載した。この中で、南シナ海が「相対的に落ち着いた」状況にあると主張。仲裁判断から5年を迎えるにあたり、米海軍のミサイル駆逐艦がパラセル(中国名・西沙)諸島周辺で「航行の自由」作戦を実施したことなどを「雑音」と形容した。さらに、カナダ、オーストラリア、日本については「ワシントンの調子に合わせ、仲裁について『法的効力がある』などと高言している」と牽制する。

同社説は、仲裁裁定に関する米政権の「もくろみ」を以下のように一方的に描く。仲裁裁定を使いフィリピンなどを中国との衝突に誘い入れる▽米国や日本などが攪乱(かくらん)して南シナ海に騒ぎを起こして中国と域内国家が損失を受ける▽中国の発展を牽制するという戦略的な利益を米国が得る―。このように、バイデン米政権が同盟国などと形成を進める「対中包囲網」の一環として、同判断が持ち出されているという図式を描いていることが分かる。

さらに、米国への対抗意識は露骨だ。社説は「中国は、(南シナ海の)域内国家と団結して、地域に混乱を作り出そうという米国の野心を全力で打ち砕く」と強調。「域内各国や、東南アジア諸国連合(ASEAN)との意思疎通や協力を強化すると同時に、この地域で米国とその同盟国に対する抑止力の構築を推し進める」との考えを示した。

中国はこの5年間、南シナ海の実効支配を強める姿勢をあらわにしてきた。昨年4月にはスプラトリー(中国名・南沙)諸島などを管轄する行政区を設置し、今年2月には海上警備を担う海警局に武器使用を認める「海警法」を施行した。しかし、中国側はこうした措置については触れずに、自国にとって都合の良い主張を繰り返している形だ。(北京 三塚聖平)