オランダ・ハーグの仲裁裁判所が2016年7月に南シナ海のほぼ全域に主権を有するとの中国の主張を退けてから7月12日で5年がたった。海洋進出を続ける中国に対して国際社会が厳しい目を向ける中、親中的なフィリピンのドゥテルテ大統領は裁定を無視する姿勢を一貫して崩さず、同国メディアから批判を浴びる。一方、中国メディアは「対中包囲網」を構築する米国を牽制(けんせい)。「計略に引っ掛かってはならない」などと主張した。
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≪ポイント≫
・親中的なドゥテルテ大統領は裁定を無視
・外交政策と安全保障戦略の再調整が必要
・中国はいまなお裁定判断を受け入れない
・米国主導による「対中国包囲網」を警戒
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フィリピン 画期的「遺産」活用すべきだ
フィリピンは仲裁裁判所の裁定の当事国だ。アキノ前政権が中国が南シナ海のスカボロー礁(中国名・黄岩島)を実効支配したことに反発し、2013年に訴えを起こした。ところが、親中的なドゥテルテ現大統領は裁定を無視する姿勢を一貫して崩さない。裁定の効力や有用性を当事者自らが弱めている形で、比メディアからは裁定という「遺産」を活用すべきだとの意見が上がった。
ドゥテルテ大統領は16年の就任以来、中国の経済支援を見込んで裁定をほぼ無視し続けた。国連など国際社会で裁定への支持を呼びかけることもしていない。今年5月のテレビ演説では「役に立たない。ごみ箱に捨てよう」とも言い放った。融和姿勢に乗じるように中国は南シナ海の実効支配を進め、3月にはフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内に約220隻の中国船団が停泊した。
ドゥテルテ氏の親中を比メディアは憂慮する。英字紙インクワイアラー(電子版)は7月9日付で「裁定の遺産は維持されなければならない」とする論説記事を掲載した。
記事ではドゥテルテ政権について「中国の南シナ海における拡張主義的な態度に対して、敗北主義的な態度と不作為で応じてきた」と強く批判。「外交政策と安全保障戦略の再調整を早急に行わなければならない」と警告した。
来年5月の大統領選を念頭に「フィリピンの次のリーダーたちは、この画期的な遺産の重要性を再認識しなければならない。裁定は法の支配に対する国際的な敬意を示すものだ。国の主権と領土の管轄権を揺るぎなく主張することはフィリピン政府の義務であり、責任だ」と訴えた。