正論9月号

自民の〝立憲化〟は百害あって一利なし 産経新聞政治部編集委員兼論説委員 阿比留瑠比

党会合での自身の発言について、報道陣の取材に応じる立憲民主党の本多平直衆院議員=6月8日午後、国会
党会合での自身の発言について、報道陣の取材に応じる立憲民主党の本多平直衆院議員=6月8日午後、国会

※この記事は、月刊「正論9月号」から転載しました。ご購入はこちらをクリック

筆者は本誌四月号で、「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」という森喜朗元首相の軽口が、よってたかって世紀の大失言、国益を損なう女性蔑視発言に仕立て上げられ、森氏が東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長辞任に追い込まれた問題について、集団リンチであり魔女狩りだと書いた。

中世ヨーロッパで行われた魔女裁判では、ある人物を魔女だと証明する方法はいくつもあった。実態があろうとなかろうと、もっともらしい告発者の証言があれば有罪とされた。手足を縛って重い石とともに水の中にほうり込むやり方では、浮いてくれば魔女の証明とされる。沈めば無実となるが、当然死んでしまう。

野党やマスコミの滅茶苦茶な政敵批判はこれまでもあったが、森氏に対する一斉攻撃は、いくら何でも常軌を逸していると感じていたからである。

その頃、立憲民主党の枝野幸男代表は、森発言に対してこんなふうに繰り返し痛罵していた。

「女性蔑視と言わざるを得ないような言い訳のつかない発言だ。本当に日本人として恥ずかしい」

「とても唖然として、女性差別という言葉では足りない発言だ」

「論評するのも情けない」

「失言ではなく、われわれも含めて日本社会が抱えている問題(の表れだ)」

その枝野氏が七月十三日の党常任幹事会で述べた言葉が、同党のホームページに以下のように記されている。

「性犯罪被害当事者の皆さんをはじめジェンダー平等の確立に期待する多くの皆さんの期待と信頼を損なったことを重ねてお詫び申し上げるとともに、報告書の指摘と提言に基づき性別を問わず、その個性と能力を十分に発揮することができるジェンダー平等を確立することに向けて党内の認識の共有とあるべき党運営に向けて毅然として取り組むことを改めて決意をする」

読者は一読、何のことか分からないだろう。これは十四歳の子と同意した性交で逮捕されるのはおかしいと主張し、社会の強い批判を浴びていた本多平直衆院議員を党員資格停止一年とする処分に関しての言葉である。

一応謝罪はしているものの本多氏の名前にも触れず、全く他人事のようである。単に一般論を述べているようにすら思える。

だが、本多氏は枝野氏が代表を務める立憲民主党の所属議員であり、しかも枝野氏の政策秘書だったことを踏まえれば、極めて無責任な態度ではないか。

枝野氏は意に染まぬことを言わざるを得ないときや、聞かれたくないことを質問されると往々にしてこのように木で鼻をくくったような答弁をする。弁護士出身の雄弁家で、持論を語るときはいいが、反論や反撃を恐れると極度に防御的になる癖がある。

枝野氏だけではない。森氏をあれほど口を極めて「口撃」してきた同党の議員たちは、本多発言に対してはおとなしい。本多氏の言い分は社会通念からも常識からも外れているが、それに対する憤りをはっきり公に示す議員は寡聞にして知らない。

他者に厳しく自分や身内に甘いのは、旧民主党時代から脈々と受け継がれてきた党風であり、今では伝統芸能のような安定感もあるものの、やはりみっともない。

内部統制できない民主党体質

それでは、本多氏の発言をもう一度おさらいしたい。それは五月十日の党性犯罪刑法改正に関するワーキングチーム会合で述べた次のセリフである。

「五十歳近くの自分が十四歳の子と性交したら、たとえ同意があっても捕まることになる。それはおかしい!」

本多氏は実際は五十六歳であり、どうしてこんな微妙に鯖を読んだのかは分からない。ともあれ発言は法律上、性交の同意能力があるとみなす「性交同意年齢」の引き上げを議論している中で飛び出した。

日本の現在の刑法では、理由にかかわらず性行為が処罰されるのは、相手が十三歳未満の場合となる。明治時代に制定されたこの基準は先進国の中では最も低く、自由を重んじるフランスでも性交同意年齢は十五歳と決まっている。

このため、わが国でもその引き上げが課題となっているが、本多氏はこう反論していたという。

「年の離れた成人と中学生にも真剣な恋愛関係が存在する場合があり、処罰には懸念がある」

会合では、別の左派系議員からこんな賛同意見も出たとされる。

「自分は中学時代に童貞を捨てたが、別にそれで問題はなかった」

そこには、十代に到達したばかりの未熟な子供たちの心身を、社会全体で保護しようという発想は見られない。ただ自分たちの意向や経験に固執するばかりで、己の自由な欲望を守りたいと言っているだけにも聞こえる。

そもそも、年齢差に関係なく恋愛イコール性交という発想自体も疑問であり、理解し難い。

そしてこれら一連の発言は、六月五日に産経新聞が報じるまで表に出ず、秘匿されていた。女性問題や性の問題にあれほど敏感で、森氏発言を糾弾した立憲民主党の女性議員は、本多発言は別に問題ないと考えていたのだろうか。

そんな中で今度は、朝日新聞が七月十三日にまずインターネット上で「立憲、本多氏の公認内定取り消しへ 性交同意巡る発言で」と題して次のように報じた。



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「正論」9月号 主な内容

【特集 令和の安全保障考】

日本の軍事力増強が台湾・尖閣有事を防ぐ㊤ 前内閣総理大臣 安倍晋三×元陸上幕僚長 岩田清文×元内閣官房副長官補 兼原信克

「抑止」重視へ変革する米海兵隊 元陸将・ハーバード大学上席研究員 磯部晃一

台湾防衛戦略 米国の出方を読む ハドソン研究所研究員 村野将

デジタル安保構築で日米同盟強化図れ 慶應義塾大学教授 手塚悟

米中の法律戦と立ちすくむ日本 株式会社アシスト社長 平井宏冶

【特集 政治にモノ申す】

求む、決断できる非常時型指導者 評論家 潮匡人

「挙国内閣」こそ回天の大事業だ 元産経新聞社専務論説委員長 吉田信行

統治機構改革で国民の信を問え 慶應義塾大学教授 松井孝治

「第三臨調」創設せよ 国家のモデルチェンジ急げ 政策シンクタンク代表 原英史

自民の〝立憲化〟は百害あって一利なし 「政界なんだかなあ」特別版 産経新聞政治部編集委員兼論説委員 阿比留瑠比

小沢一郎と共産党を自民党はあなどるな 元内閣官房長官 熊谷弘

【特集 人権弾圧国家・中国】

「在日ウイグル人証言録」本誌で連載する理由 評論家 三浦小太郎

<証言1>ムハラム・ムハンマド・アリ「いなくなって変わり果てた父」

<証言2>アブドウラー(仮名・男性)「いつ誰がどうなるかわからない

<証言3>グリスタン・エズズ「無事という連絡すらできない」

さようなら自由なる香港 在日香港人 ウィリアム・リー

香港で現代の文革が始まった 静岡大学教授 楊海英

台湾問題は新たな局面に チャイナ監視台 産経新聞台北支局長 矢板明夫

戦狼の大国に腰据えて臨め 国際ジャーナリスト 安部雅延

【特集 朝鮮半島情勢】

北でうごめく反金正恩のマグマ 関東脱北者協力会代表 木下公勝

韓国大統領選で飛び交う「腐敗、無能、国民略奪」 「朝鮮半島藪睨み」特別版 産経新聞編集委員 久保田るり子

【特集 戦後76年と歴史戦】

韓国と反日日本人に洗脳されたユネスコ 一般財団法人「産業遺産国民会議」専務理事・産業遺産情報センター所長 加藤康子

今に生きる「英霊の遺書」 ノンフィクション作家 早坂隆

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