5年前の悔しさをバネに躍進した。体操男子種目別あん馬決勝で1日、萱和磨(かや・かずま)(24)が渾身(こんしん)の演技を披露し、接戦の末、銅メダルを獲得した。2016年リオデジャネイロ五輪では補欠に回り、掲げられた日の丸を眺めるしかなかった悔しさを「5年間、一度も忘れたことはありません」と明かした萱。自らの力で表彰台に上った24歳の顔に笑みがこぼれた。
団体でともに銀メダルを取った橋本大輝(19)らが見守る中、会心の演技を終えた瞬間、ガッツポーズを決め、ほえた。
気持ちだけは人一倍強い選手だったが、決して技術のある選手ではなかった。中学時代から萱を指導した市立船橋高(千葉県船橋市)の大竹秀一監督(43)は「努力する才能に抜きんでていた」と話す。
泥臭く、自らの目標を短期・中期・長期にわけて立て、全てをこなしてきた。いつの間にか、今大会団体でともに戦った谷川航(わたる)(25)ら早くから才能を見いだされていた同世代の選手に肩を並べていた。
「自分が成長する姿をみじんも疑わない」。大竹監督は、萱の姿勢をそう表現する。
そんな強気な萱も、人知れず悩みを抱えることもあった。リオ五輪から1年後、大竹監督のもとに1通のメールが届いた。大学に進学していた萱からだ。
《体操がうまくいかないです。どうしたらいいかわからない。初心に帰って聞いてみました》
大竹監督は少し考えて、《自分らしく、自分自身、萱和磨を疑うなよ》と返した。その後は弱音を吐くこともなくなった。
予選7位からの快挙に「諦めなければ絶対に何か起こると信じて挑んだ」という萱。「パリに向けてのスタートのメダル。僕はまだまだ満足していない。いますぐにでも練習したい」と意気込んだ。(吉沢智美)