【政治月旦】準備が遅すぎる パラリンピックの学校観戦

千葉市で開催されたパラスポーツの体験イベントでシッティングバレーボールを楽しむ参加者(同市提供)
千葉市で開催されたパラスポーツの体験イベントでシッティングバレーボールを楽しむ参加者(同市提供)

今月半ば、小学6年生の次女が持ち帰った学校からの「お知らせ」プリントを見てがっかりした。9月初旬に予定していた東京パラリンピックの観戦を取りやめるというのだ。新型コロナウイルスをめぐる「諸般の状況」などが理由に挙げられていた。

次女が通う小学校では、学校単位で観戦チケットが割り当てられる「学校連携観戦プログラム」の一環として、6年生全員が幕張メッセ(千葉市)で行われるシッティングバレーを観戦する予定だった。「障害があってもこんなにすごいことができる。勇気を子供たちに感じてほしい」。ある先生は春先にこう語っていたが、中止はさぞかし無念だろう。

パラの学校観戦は、「多様性」といった難しい言葉を使わずとも、努力の尊さや人間の無限の可能性に触れられる希少な機会だ。娘には、困難を乗り越えて闘う選手の姿を会場で見てほしかった。

娘の小学校がある千葉県船橋市の教育委員会によると、市内の小中学校と特別支援学校の計27校で計約3千人が五輪やパラを観戦する計画だったが、今月下旬までにすべてキャンセルとなった。判断は学校単位で行ったというが、市教委の担当者は「現在もパラが有観客となるかどうか分からない。目先の感染者が増えている現状もあり、極めて難しい判断を迫られる」と語った。

観戦の是非を個々の学校や教育委員会の責任のみで判断させるのはあまりに酷だ。保護者には私のように観戦させたい人もいれば、感染への懸念から中止を望む人もいるだろう。加えて大半の学校は今月下旬から夏休みに入った。一定の判断基準が与えられないまま、感染状況の行方は不透明で、休み中には各家庭への連絡が難しくなる。早々に「中止」の方を判断せざるを得ない学校も多かったろう。

「できれば子供たちの観戦が可能になるような環境を作りたい」

丸川珠代五輪相は20日の記者会見で、パラリンピックで学校連携観戦プログラムを利用した有観客化に強い意欲を示した。大会組織委員会の関係者も「子供がパラリンピックを観戦する教育効果は高い。なんとしても実現したい」と述べていた。ならば、なぜ政府や組織委は率先して安全性を説明し、観戦の是非を判断するガイドラインを示さないのか。

市教委の担当者は「五輪に関する連絡は、政府や組織委が無観客化を決めたときに『学校観戦を中止する』と知らせがあっただけだ。パラに関しては今まで何の連絡もない」と困惑する。あまりにも不誠実だ。

政府は緊急事態宣言下の東京都内でも、プロ野球などの有観客開催を認めてきた。これまで観客に感染者集団(クラスター)が確認された例はない。学校観戦の安全性は、感染症の専門家も言及してきたはずだ。

政府の新型コロナ感染症対策分科会の尾身茂会長らは、6月に無観客化を提言した際、代替手段として「地元小学生の観戦」を例示した。尾身氏は五輪やパラの開催に伴う人流の増加を懸念する一方、教諭が引率し、学校と競技場を「直行直帰」する学校観戦は「移動経路を含めて感染対策ができる」と評価した。

移動に公共交通機関を使うリスクを懸念する向きもある。心配なら貸し切りバスの使用も考えればよい。コロナ対策用の予備費が数兆円単位で余っているなら、政府はバスのチャーター費を補助できないのか。

政府や組織委は、都内に発令中の緊急事態宣言の期限を踏まえ、パラの観客に関する判断を8月中旬頃まで先送りする構えをみせている。五輪と同様に判断をぎりぎりまで待つのでは遅すぎる。

学校観戦の意義を認めるなら「一般客を断っても学校観戦は受け入れる」というくらいのメッセージを早く出してはどうか。実施に伴う感染対策について具体例を示すなど、学校側が苦しまずに判断できる環境を早急に整えるべきだ。

感染が急拡大する局面とはいえ、1カ月先の貴重な機会を不必要に失うことのないよう、科学的かつ冷静に判断することが大切だ。この問題にもしっかりとした政治のリーダーシップを求めたい。(政治部次長 水内茂幸)