小さな体で「3倍努力」、心優しき柔道家 素根輝が頂点に

柔道女子78キロ超級で金メダルを手に笑顔の素根輝=日本武道館(撮影・松永渉平)
柔道女子78キロ超級で金メダルを手に笑顔の素根輝=日本武道館(撮影・松永渉平)

初出場の舞台で夢をかなえた瞬間、涙をこらえきれなかった。柔道女子78キロ超級で金メダルをつかみ取った素根輝(あきら)(21)は畳の上で泣いた。「頑張ってきてよかった…」。30日の決勝戦では、体格に勝るキューバのオルティス(31)を果敢に攻め立て、延長戦の末、激闘を制した。

5人きょうだいの末っ子で、3人の兄が通う地元、福岡県久留米市の柔道教室「脩柔舘」(しゅうじゅうかん)に入門したのは小1の頃。兄、勝(まさる)さん(25)によると、「負けん気がものすごかった」。小6の全国大会ではオール一本勝ちで優勝。中学校でも全国を2連覇した。

だが、中学時代の指導者、黒岩浩隆さん(58)は「本当は柔道に向いていないんじゃないか、と思わせるほど優しい生徒だった」と話す。中3の夏に行われた全国大会の団体決勝戦。素根が一本勝ちを決め、母校は2勝1敗で優勝したが、歓声を上げる輪の中に素根はいなかった。

「大丈夫だよ」。チームでただ1人敗れ、泣きじゃくる仲間の肩をさすりながら慰めていた。「中学生だ。優勝すれば真っ先に喜ぶだろうに」。その優しさに、黒岩さんは打たれた。

しかし、自分には誰よりも厳しかった。高1の時は全国大会の九州予選で敗退。兄の勝さんに支えられ、自宅の一部を改装して畳を敷き、乱取りを繰り返した。技の研究は1日6時間以上。後に「無尽蔵」と恐れられることになるスタミナを養いながら、30日の試合で繰り出した担ぎ技の「体(たい)落とし」を習得したのもこの時期だ。

責任感も強い。「私が全部抜いて優勝します」。高2では、勝者がそのまま次の相手と対戦する方式の全国大会決勝で、史上初の5人抜きを達成している。

その厳しさは、ときに度を超すことも。真夏の猛暑の中、激しい練習で何度も倒れた。当時の指導者、松尾浩一さん(48)は「何度も看病した。それでも、やめようとしなかった」と振り返る。母校の柔道場で五輪の決勝を見守った松尾さんは「金メダリストとなって戻ってきてくれるのが夢のよう。よく頑張った」とたたえた。

「三倍努力」を自身に課してきた表彰台の21歳は、優しいまなざしを輝くメダルに投げかけていた。(吉国在、根本和哉)

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