陸上スタート 末続慎吾氏、男子短距離に期待「衝撃を与える魂の走りを」

【東京五輪2020 陸上競技】陸上競技が始まったった国立競技場=30日(桐山弘太撮影)
【東京五輪2020 陸上競技】陸上競技が始まったった国立競技場=30日(桐山弘太撮影)

東京五輪の陸上競技が30日にスタートするのを前に、弊紙で解説を務める2008年北京五輪男子400メートルリレー銀メダルの末続慎吾氏に男子短距離の見どころを独自の視点で語ってもらった。(宝田将志)

100メートルの日本勢で決勝進出の可能性が一番あるのは山県亮太(セイコー)だろう。現在の日本では最強。自分の技術を構築していて、外から見ていてやりたいことが分かる。調子の良しあしに振り回されず、常に一定水準以上のレースができるのは強みだ。

ただ一方で、少しまとまってしまっているようにも映る。「俺は勝ちたいんだ」といったガツンとした信念とか情熱、技術を越えた野性のようなものが出てくると、もっと伸びやかに走れるのではないか。五輪の大一番でエモーショナルな部分がにじみ出てくるか見たい。

多田修平(住友電工)は過去に桐生祥秀(日本生命)、山県と目の前で日本記録を2度出された経験からか、強い意志を備えてきたようだ。初優勝した6月の日本選手権は、それがよく出ていた。日本選手権で一度、燃焼しているので、そこを越えて五輪にどれだけエネルギーを注げるか。

もう1人、気になるのは200メートルの飯塚翔太(ミズノ)。日本選手権は惨敗で、何とか自身3度目となる五輪の出場権を確保した。30歳という年齢を考えても、この五輪が本気で懸ける大会になるはず。穏やかで優しい性格の選手だが、もっと良い意味でわがままに、荒々しく、「プライドが傷つこうが、自分はこれをやるんだ」といった勝負の姿勢を打ち出せるかどうか。応援したい。

どの選手たちも、ここまで十分に戦ってきたことだろう。僕は技術論もさることながら、彼らが勝負の際(きわ)で本当に向き合うべきものは何かに注目している。

新型コロナウイルス禍の五輪では「見る人に感動を」などと言っても、なかなかうまく伝わらないのではないか。「衝撃を与える」くらいの迫力のパフォーマンスでないと。魂を込めて走っている姿によって国民感情は動くと思う。

無観客開催では、多くの観客と同じ空間で記憶を共有することができない。無機質なテレビの画面越しに選手の声、思いが伝わらなければ意味がない。選手たちは、わざわざ「思いを伝えよう」などと考えなくていいので、ひたすら真っすぐな思いで競技場に立ち、カメラとマイクに向かって「本当の自分」を表現してほしい。

最後に400メートルリレーについて。個人の戦い方や生き方を示せている選手たちで構成されたチームは強い。そういったものをリレーに反映させやすいのは桐生だ。日本選手権で敗れ、個人種目に出場できないことも含め、持てる力、思いを発揮してほしい。記憶に残るレースになることを楽しみにしている。


■末続慎吾 1980年6月2日生まれの41歳。熊本県出身。2003年パリ世界陸上男子200メートル銅メダル。五輪には00年シドニーから3大会連続で出場し、08年北京400メートルリレーで銀メダルに輝く。現役選手として走り続け、会員制陸上教室「イーグルラン」も主宰する。近著に『アスリートの本質 最強スプリンターが語る勝敗哲学』(竹書房)。