新型コロナウイルスの感染者が急増する東京都の医療提供体制をめぐり、過去の感染ピーク時より状況は悪くないとする都の見解に対し、医療現場から疑問の声が上がっている。都は重症化リスクが高い高齢者の感染減少に伴う病床の逼迫(ひっぱく)度の違いを強調するが、対応を迫られる病院側は「入院が必要な患者が自宅療養に回る事例も出ており、厳しい状況だ」と訴える。
都の30日の新規感染者は3300人。過去最多だった29日の3865人を下回ったが、重症者は同日より7人増え88人となった。
重症者が増えれば病床使用が長引き、多くの医師や看護師らの対応も必要で、医療機関の負担は大きい。だが、新規感染者が2848人に跳ね上がった27日、都の吉村憲彦福祉保健局長は「医療提供体制がにっちもさっちもいかなくなり、現状では死者がばたばた出ることはない。いたずらに不安をあおらないでほしい」と報道陣に求めた。
背景には第3波のピークだった今年1月7日前後と異なり、ワクチン接種が進んだ高齢者の感染が減少していることがある。新規感染者が2520人に上った同日は60代以上が14%を占めたが、今月30日時点では4・3%まで低下。小池百合子知事も「(現状が)これまでの延長線ではないことを強調した発言」と吉村氏の立場に理解を示す。
一方、昭和大学病院(品川区)の相良博典(さがらひろのり)院長は「感染力の強い変異株(デルタ株)が主流となり、30代以下の若年層も重症化するケースが出ている」と指摘。基礎疾患などで重症化しやすい患者でも自宅や宿泊療養となっている事例もあるといい、「かなり厳しい状況」と訴える。
都の基準では重症に含まれない症状の重い中等症患者も増えており、相良氏は「一般診療を制限せざるを得なくなる可能性もある」と危惧する。別の医療関係者によると、この時期は熱中症が増加するだけでなく、脱水症状から脳卒中や心筋梗塞などの救急搬送も多くなる。新型コロナの感染拡大傾向が続けば、こうした患者の受け入れが非常に厳しくなるという。
都医師会の猪口正孝副会長は第3波との感染状況の違いを受け止めた上で、「自宅療養が多くなれば、医療資源が分散される」と強調。29日の都のモニタリング会議では、「医療提供体制の逼迫が始まっている。真っただ中といってもいい」と警告した。