「最後の宣言」も感染急増 剣が峰に立たされる首相

緊急事態宣言などの対象地域の拡大と期間延長の方針を表明する菅義偉首相=29日午後、首相官邸(春名中撮影)
緊急事態宣言などの対象地域の拡大と期間延長の方針を表明する菅義偉首相=29日午後、首相官邸(春名中撮影)

政府は新型コロナウイルス特別措置法に基づく緊急事態宣言をめぐり、対象地域を拡大し、期間を延長する方針を固めた。菅義偉首相は東京都に4度目の宣言を発令する際「最後の宣言にしたい」と周囲に漏らしていたが、感染は拡大するばかり。東京五輪後にはパラリンピックが控え、秋には国家の行く末を決める衆院選も予定されている。感染力の強いインド由来の変異株(デルタ株)が猛威を振るう中、首相は崖っぷちに立たされている。

政府は当初、緊急事態の対象地域を拡大させることに慎重だった。ある閣僚は「酒類提供停止など自治体がやるべきことをやるのが先だ」と自治体を半ば突き放し、重症者が減少傾向にあったため、新たな対策を講じるのに政府の腰は重かった。五輪開催中の対象地域拡大は避けたいとの思いもあったとみられる。

しかし、27日発表の東京都の新規感染者数が過去最多となり、翌日3千人を突破すると、空気は一変。別の閣僚は「5千人は覚悟しなければならない」と渋い表情を浮かべた。

感染が急拡大したのは、国民の間に「宣言慣れ」が広がる中、デルタ株への置き換わりが急速に進んだことが大きい。

高齢者へのワクチン接種は着実に進み、都内の高齢者の新規感染者は約3%に低下したが、接種が行き渡っていない40~50代の入院患者は増加。厚生労働省幹部は「40~50代の中等症の人をどの程度抑えられるかだ。今のように感染者が伸び続けるとお盆には病床はきつくなる」とみる。

感染は20~30代の若年層で広がるが、この世代には接種を敬遠する向きもあり、このことも政府にとって頭痛の種となっている。

そんな中、厚労省は19日、軽症や中等症患者が対象の初の治療薬として、重症化を抑える効果が期待される「抗体カクテル療法」の点滴薬を特例承認した。政府はこの治療薬に期待を寄せるが、患者への投与は緒に就いたばかりだ。

加えて、8月は夏休みやお盆などで人の移動による感染拡大も懸念される。悠長に構えてはいられないのが実態で、「宣言の効果は限定的」(政府関係者)と分かっていても、「何もしないよりまし」(同)というのが、政府の本音だ。

新型コロナ対策分科会の尾身茂会長は29日の参院内閣委員会で「今の最大の危機は社会一般の中で危機感が共有されていないことだ」と語り、悲壮感を漂わせた。(坂井広志)