「天才扱い」を嫌う新エース 橋本、最年少の個人総合王者

個人総合で金メダルを獲得し、日の丸を掲げて歓喜する橋本大輝=28日、有明体操競技場(川口良介撮影)
個人総合で金メダルを獲得し、日の丸を掲げて歓喜する橋本大輝=28日、有明体操競技場(川口良介撮影)

両親が「夏に大きく輝くように」と名付けた8月生まれの19歳は、初出場の五輪で見事、金色に光るメダルを勝ち取った。体操の男子個人総合決勝で28日、橋本大輝(順大)が優勝を果たした。日本選手が五輪の個人総合を制したのは史上5人目。世界最年少でオールラウンダーのトップに立ってみせた。

「言葉では言い表せない。人生で一番うれしい瞬間って言い表せないんだなと思いました」

床運動、あん馬と好演技を並べて滑り出した。だが、つり輪で予定の難度が取れず、跳馬はラインオーバーとなり、元世界王者の肖、ナゴルニーと大接戦になった。暫定4位で残り2種目。平行棒15・300点、鉄棒14・933点とハイスコアを並べて逆転劇を完結させた。

体操は6歳から始めた。3人兄弟の末っ子は、2人の兄と千葉の「佐原ジュニアクラブ」に通った。クラブの山岸信行代表から「人の演技を見て学べ」と指導されたことが、類いまれな感性と思考力を養うことにつながる。

橋本は「練習時間は限られている。その中でどれだけつかめるか。休憩の間に技のことを考えたり、人の演技を見たりするのも、うまくなるチャンス。体操って感覚でする競技だから」と語る。

千葉・市立船橋高、順大とレベルが高く、かつ自主性を重んじる環境に飛び込み、他の選手の力の入り方や動きのタイミングの違いなどを、さらに見極められるようになった。急成長を遂げた秘訣が、ここにある。

そのようにして一瞬一瞬を過ごしているからこそ、安易に「天才」と扱われることを嫌う。「努力とか根拠とか理論があっての結果。ちゃんと考えてやってきた」。大舞台でも堂々と演技できるのは、この強烈な自負心があってこそだ。

「ここで涙を流してしまうと、今に満足してしまう。チャンピオンは涙は流さず、常に前だけ見ている」。日本の新エースは、東京・有明から輝かしい歴史を刻み始めた。

(宝田将志)

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