100歳時代プロジェクト

人類初、90歳で100メートル16秒台

世界新記録を出した直後の田中博男さん(中央)。向かい風1・7メートルという悪条件下での大記録だった(岩手マスターズ陸上競技連盟提供)
世界新記録を出した直後の田中博男さん(中央)。向かい風1・7メートルという悪条件下での大記録だった(岩手マスターズ陸上競技連盟提供)

100メートル走で16秒台といったら速いと思えないかもしれないが、これが90歳の男性の記録だと聞いたら-。今年5月、青森市の田中博男さん(90)は、記録会の100メートル走で、16秒86の世界新記録を打ち立てた。90歳以上では〝人類初〟の16秒台という偉業だが、田中さんは定年直前までスポーツの経験がなかったという。東京五輪の競技がたけなわの今、運動を始めたいという人にも役に立ちそうな体づくりや健康管理の要点を、田中さんに聞いた。

ガトリンと〝同格〟

田中さんが世界新記録を打ち立てたのは5月1日、岩手県花巻市で行われた記録会のM90クラス(男子90~94歳)。同月23日には、青森県六ケ所村の記録会で、200メートル・M90クラスの世界記録(36秒02)も出し、いずれも7月2日付で世界マスターズ陸上競技協会(WMA)で公認された。

WMAのホームページ(英文)に、世界記録として掲載され、最も〝若い〟クラスのM35(35~39歳)には、アテネ五輪100メートルの金メダリスト、ジャスティン・ガトリン選手(米国)が一昨年、37歳で出した9秒87も載っている。

WMAでは、各クラスの記録を比較できるよう、20代くらいの全盛期に同程度のパフォーマンスなら、どれくらいのタイムに相当するかを算出する指標を考案・作成。それによると、田中さんの5月1日の記録は9秒7前後という驚くべき数字となる。

定年直前まで運動経験なし

小学校教諭だった田中さんがトレーニングを始めたのは定年前年の59歳の秋。それまで運動経験がなかったが、「子供のころ足が速かったので、陸上をやってみようと思った」という。5歳刻みでクラスが変わるマスターズ陸上なら、「年齢が上がっても新たなクラスで記録更新や上位を目指せる面白さがある」。

最初の大会(平成3年、60歳)での100メートルの記録は15秒6。「本気で練習したらどのくらい出るかを試そうと、気持ちに火がついた」と振り返る。冬は雪深く制約があるものの、週に4~5回、室内の運動場で練習。約40分かけて全身のストレッチを行った後、100メートルの全力疾走と歩行を交互に行うインターバル式のトレーニングを計約1・5キロ。さらに上り階段を使ったダッシュを2、3本。以前は足の故障が多かったが「5年前に入念なストレッチを取り入れてからは、ほとんど故障しなくなった」という。

それ以上に気を使うのが、医療機関の定期的な受診だ。田中さんは70代前半で狭心症と診断されたこともあり、陸上競技の経験を持つかかりつけ医の許可を得たうえで競技を続ける。

月1回の受診はもちろん、「大会終了後は、症状がなくても必ず状態を報告する」「少しでも体に違和感があったらすぐに受診する」との指示を守る。「高齢で運動を行う際は必ずかかりつけ医に相談し、何でも話せる関係を作っておくことが大切」と強調する。

また、日常生活でも、毎日3食、和食をしっかり取り、「極力歩く。歩くことで体調の把握ができるし、練習のための基本的な体力作りもできる」という。

そんな田中さんは、これから運動を始めようという中高年に、次のようにエールを送る。

「自分の力を試すのか、それとも人との交流を楽しむのかを見極めて。いずれにせよ高齢期を大いに楽しんでほしい」

(山本雅人)

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