12歳年下のパートナーの首に金メダルをかける水谷隼(じゅん)のはにかんだような笑顔をテレビ画面越しに見つめながら、手元にある古い写真に何度か視線を落とした。
初めて彼にインタビューしたとき、誌面に掲載された写真である。後にすべての色のメダルを手にするオリンピアンはまだ16歳で、全日本選手権を終えて留学先のドイツに帰国する直前だった。写真に添えた筆者の原稿は「みんな、足りないのは経験だって言うんですけど、僕はもう11年も卓球をやってきてるんです」という彼の言葉で終わっている。
買い集めた漫画本を大きなスポーツバッグにつめこみ、成田空港近くの理髪店で毛先を染めてきた少年が表彰台の真ん中に立つまでの約15年間、筆者は折にふれて彼をインタビューしてきた。アスリートに限定すれば、もっとも多くの言葉を聞き取った取材対象かもしれない。