「黒い雨」上告断念 救済の枠組み作りを急げ

「黒い雨」訴訟について国が上告を断念し、被害者救済の道が大きく開かれた。戦後76年近くが過ぎる中、被爆者の高齢化は進んでいる。国は早急に広島高裁判決の趣旨に沿った救済の枠組みを構築すべきだ。

広島への原爆投下の直後に、放射性物質を含む「黒い雨」を浴びながら国の援護を受けられないのは違法だと訴えた住民84人全員を被爆者認定した広島高裁判決が確定した。原告以外の同様の被害者についても「早急に対応を検討する」との菅義偉首相の談話が閣議決定された。人道的観点から被害者救済を急ぐために援護行政を見直す、妥当な政治判断といえる。

これまで国は黒い雨を浴びた人に対し、特定の地域(援護区域)内にいてがんなど特定の疾病になった場合のみ、特例的に被爆者と認定してきた。

広島高裁判決は昨年7月の1審判決に続き、区域外で雨を浴びた全員に被爆者健康手帳の交付を認めた。雨に直接打たれた場合に限らず、内部被(ひ)曝(ばく)で健康被害の可能性があれば認めるべきだとし、特定疾病の発症を要件とした1審判決よりも範囲を広げた。

この点は、原爆による健康被害の立証を原告側に求めた福岡高裁判決(平成29年に最高裁で確定)との整合性を欠く。このため、首相談話は「重大な法律上の問題点があり、本来は受け入れがたい」とも主張し、内部被曝については「容認できない」との立場を明確にした。

ハンセン病元患者による国家賠償訴訟や薬害肝炎訴訟などは、当時の首相が解決に向けた政治判断をしたことで法整備が進み、早期の救済につながった。

原爆投下から76年となる今も、健康被害の全容は見えない。国が援護区域の拡大を視野に設置した有識者検討会は、まだ第5回会合が開かれた程度で、作業は遅々として進んでいない。

区域外で雨を浴びた人は、今も約1万3千人いるとされる。

国は区域拡大の再検証を進めるが、原告や同様の被害者については指針改定などにより個別に認定する方針で、広島県・広島市だけでなく長崎県・長崎市とも協議していく。首相談話の方針の下でも被害者の救済は可能だ。その作業に時間がかかるあまり、高齢となった人々の救済が間に合わなくなることだけは絶対に避けたい。