遅咲き・浜田 磨いた寝技で日本柔道最年長「金」

女子78キロ級決勝でフランスのマドレーヌ・マロンガを攻める浜田尚里(右)=日本武道館
女子78キロ級決勝でフランスのマドレーヌ・マロンガを攻める浜田尚里(右)=日本武道館

初戦からさえた寝技が決勝でも炸裂(さくれつ)した。29日に行われた東京五輪の女子柔道78キロ級決勝で浜田尚里は世界ランキング1位の難敵、マロンガを畳に引き込み、必死の抵抗にも構わず抑え込んだ。「絶対に逃がさない」。執念というほかない一本勝ちだった。試合時間は4試合でわずか計7分42秒。絞め技、関節技、抑え込み技。「練習してきたことを全て出し切った」。完勝だ。

鹿児島県の実家近くで柔道を始めたのは10歳の頃。寝技は高校入学後に取り組んだ。華やかな投げ技とは対照的に、寝技は基本の繰り返し。周りの仲間が飽きても、「一つずつを全力でやった」と振り返る。

山梨学院大では寝技や関節技を軸とするロシア発祥の格闘技サンボを学び、2014年にはサンボの世界選手権も制した。自分よりも力のある選手を寝技勝負に持ち込むため、その前段の立ち技も磨いた。

大学時代の恩師、山部伸敏監督は、社会人になった浜田が相手の前襟を持つ正攻法へと転身した姿に驚いた。以前は寝技に固執するあまり、長身の相手にも奥襟を狙う癖が抜けず、浮いた体を投げられる課題が克服できなかったからだ。

高校時代はロンドン五輪代表の78キロ級代表、緒方亜香里らの陰に隠れた存在。実力が飛躍的に伸びた時期はないが、着実に進化を続けた。柔道のセンスは乏しくても「格闘本能がある」と山部監督。先輩でも後輩でも、稽古では手を抜かない。我慢強さの前に、最後は必ず相手が音を上げた。

初めて世界選手権に出た18年、28歳の誕生日に初優勝を飾った。新型コロナウイルス禍の1年は、マロンガら長身選手を想定して男子と組み合った。30歳10カ月での五輪金メダルは日本柔道界の最年長記録だ。五輪開催の決まった8年前を、「出られるなんて全く思っていなかった」と振り返る遅咲きが、金字塔を打ち立てた。(田中充)

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