「脱炭素を目指し、地域をつなぐ」 中部電力パワーグリッド・市川弥生次社長

電力システム改革の最終形として「発送電分離」について紹介したのが去年の3月だった。(参考記事:「発送電分離」で電力システム改革最終段階へ

そうした中、2020年4月、中部電力株式会社から分社し、送配電事業会社として新たなスタートを切ったのが中部電力パワーグリッド株式会社(以下、中部電力パワーグリッド)だ。「パワーグリッド(power grid)」は電力需給を意味する「パワー」と送配電網を意味する「グリッド」を組み合わせたもので、新たな時代の安定供給に挑戦していくという想いを込めたとのこと。今回、同社代表取締役社長である市川弥生次氏に話を聞いた。

会社設立から 1 年

スタート直後に新型コロナウイルス感染拡大防止のための第一回目の緊急事態宣言が発令。計画していたさまざまなイベントが中止になり、新会社は静かなスタートを切った。

「本当はすべての事業場をまわり、新しい会社はこうなる、こういう風にしたいという思いを従業員に直接伝えたかったのです」

事業場は80カ所以上もある。2人の副社長と手分けし回り始めたが、コロナの影響で未だ全ては回り切れていない。

「オンライン会議が当たり前になっても、直接出向いて皆と意見交換することを大切にしたい」と市川氏。2016年の社内カンパニー制導入から分社化に備え、しっかりと準備をしてきた分、現状に歯がゆい思いがあるようだ。

カーボンニュートラルを見据えた新たな「ビジョン」

政府は2030年までに温室効果ガスを46%削減(2013年度比)し、2050年までにカーボンニュートラルを実現することを宣言した。これにより、従来の「発電所→変電所→顧客」というシンプルな電力の流れが電力需給構造の変化により、複雑化し始めた。太陽光など小規模な分散型電源が大量に誕生したからだ。

こうしたことを受け、中部電力パワーグリッドは「中部電力パワーグリッドビジョン」を策定した。

まず市川氏は、「これからはいかに設備とお客さま、あるいはお客さまとお客さま、お客さまと社会をつなぐかが重要」と述べ、ビジョンのポイントを2つ挙げた。

1つ目は、「エネルギープラットフォームの構築」だ。エネルギープラットフォームとは、発電所や設備などが繋がり、全ての電力系統利用者がエネルギーの受け渡しを安心して行うことのできる場所のこと。

「質的にも量的にも不安定な再生可能エネルギーが電力系統に繋がってくるとき、お客さまに良質な電力を安全・安価・安定的に届けるという私たちの使命を果たすために、どう設備を構築し運用していくかが大きなポイントです」

2つ目は、「地域の未来像実現への貢献」だ。

「我々の事業はお客さまが望むところには電力を供給する使命があります。地域は、自然災害や少子高齢化、脱炭素など大きな課題を抱えています。それらを解決し、一緒になって地域の未来像を描きながらその実現をサポートしていく。そこに我々の会社の発展もあるのだと思います」

図)中部電力パワーグリッドビジョン1頁
出典)中部電力パワーグリッド株式会社
図)中部電力パワーグリッドビジョン1頁 出典)中部電力パワーグリッド株式会社

エネルギープラットフォームの構築

では、中部電力パワーグリッドのビジョンを、詳しく見ていこう。

1つ目は、エネルギープラットフォームの構築だ。「フィジカルレイヤー」、「サイバーレイヤー」、「価値評価・取引レイヤー」の3層で構成されている。

まず、現実空間、現実社会で何が起こっているのか、何をしなければいけないのかを考えるのが「フィジカルレイヤー」だ。その上に「サイバーレイヤー」というデジタル空間(仮想空間)があり、実はこの2つはデジタルツインを構成している。そのさらに上にあるのが「価値・評価取引レイヤー」だ。

ひとつずつ見ていこう。

フィジカルレイヤー

フィジカルとは「物理的な」という意味。「フィジカルレイヤー」とは、電力系統の設備や、設備などに流れる電気、電源、お客さま設備など、現実世界に物理的に存在する階層をいう。

このレイヤーは「安全・安心な暮らしのために電気をお届けする」ためにある。

「2050年脱炭素を目指そうとすると、やはり洋上風力発電を稼働していかなければなりません。ところが、洋上風力の適地は北海道や東北や九州に偏在しているので、そこからどうやって(電力を)運んでくるのかがポイントになるわけです」

つまり、地域間送電網(連系線)の増強が必要になるわけだが、国の電力広域的運営推進機関(OCCTO)は、洋上風力発電が4,500万キロワット導入されるケースで必要投資額を最大4.8兆円と見積もっており、このコストの圧縮が課題だ。

その地域間送電網(連系線)の増強の取り組みとして、今年の3月末に中部電力パワーグリッドの飛騨変換所が運用開始した。これにより50Hzエリアと60Hzエリア間の融通可能容量は90万kW増え、合計210万kWとなり、電力の広域的な調達・運用に貢献している。

図)「中部電力グループ経営ビジョンに向けた取り組み」より抜粋
出典)中部電力株式会社
図)「中部電力グループ経営ビジョンに向けた取り組み」より抜粋 出典)中部電力株式会社

「系統の増強については、当社としてもしっかりと役割を果たしていきたいと考えています。自然界の電源は、量的にも質的にも不安定です。こうした再エネ電源が拡大しても適切に対応して電力品質を安定させないと、場合によっては大停電になります。こうした技術をしっかりと組み合わせて電力ネットワークの次世代化を考えなければいけないのが大きな課題です」

少し技術的になるが「アナログ(同期発電機)とデジタル(インバーター)を融合させて、電力の品質を維持する」技術が必要ということだ。これは1送電事業者ができることではなく、全国レベルで対応を考えねばならない問題だという。

また、2030年に温室効果ガスを46%削減するためには、需要地系統に太陽光や陸上風力を接続していかねばならない。

「このネットワークを今から作るのでは遅いので、既存のネットワークを最大限に活用していく必要があります。そのために『日本版コネクト&マネージ』などさまざまな送電線の利用ルールに取組んでいます」

また、再生可能エネルギーの連系量が増加すると、電圧変動の想定が難しくなり、電圧調整器を大量に増やす必要が出てくる。こうした課題を解決するため中部電力パワーグリッドは「電圧集中制御システム」を開発した。

「いろんなセンサーを配電線の途中につけたり、お客さまのところに設置したスマートメーターの情報も集めたりして電圧を制御するこのシステムを6月から始めました。この取り組みは国内初となります。」

図)「電圧集中制御システム」
出典)中部電力パワーグリッド株式会社
図)「電圧集中制御システム」 出典)中部電力パワーグリッド株式会社

「また、量的にも過不足が出てくるので、そこをうまくコントロールするためにはバッテリーなどをうまく活用して制御していかないと合理的に電力を供給することができません」


サイバーレイヤー

次が「サイバーレイヤー(仮想空間)」だ。

「太陽光発電や蓄電池、EVなどDER(※)が増えてくると、電気がどのように流れているのか、把握がしづらくなってきています。そこで、サイバーレイヤーの中でしっかりとシミュレーションすることが重要です」

※DER:Distributed Energy Resourseの略。電力系統に分散配置されたエネルギー資源の総称。

例えば、一斉にみんなが電気を使い始めるとその地域で系統混雑が起きてしまう。それを防ぐために、蓄電や蓄圧、蓄熱などを活用してエネルギーをピークシフトするような取り組みをしていかなければいけない。

また、過疎化などで電力需要が減ってきている地域では、地産地消、自給自足ができる状況になってくる。つまり、災害時にネットワークが切れたとしても、太陽光やEV(バッテリー)などのいわゆる、「分散型エネルギー」を活用すれば、その地域だけで供給力や調整力、電圧の調整などができるわけだ。

「地域にとって最適なネットワークをどう作るか、地域ごとの特徴に応じた分析をサイバーレイヤーの中でおこない、それをフィジカルレイヤーで実現していく。こうした取り組みが良質の電気を安価に提供するために必要なのです」

価値評価・取引レイヤー

そして、最後に「価値評価・取引レイヤー」だ。このレイヤーは、「多様で自由な価値取引を支える」ためにある。

実は、エネルギーは場所や時間、それにエリアによっても価値は異なる。それを可視化し、評価・取引するためのレイヤーだ。サイバーレイヤーにある計量データの価値算出結果をこのレイヤーに反映していく。

「今ここで蓄電すると価値が上がりますよ、と知らせて皆さんに充電してもらうとか、今放電すると高く売れますよ、とお知らせするわけです。こうしてお客さまの行動を促す仕組みを作っていく。この3つのレイヤーがセットになって、しっかりと機能することが再エネ導入拡大を支え、まさに脱炭素社会を構築する上で重要だと思います」

CO₂を減らすためとはいえ、莫大なお金をかけて新たなネットワーク設備を作るわけにはいかない。少子高齢化で電力需要は頭打ちだ。こうした設備投資は、託送料金で賄われるが、託送料金の値上がりは私たちの電気料金の値上がりにつながる。

「既存のネットワークを最大限に有効活用して、賢い使い方をしていかないと、安価で安定的な再エネ(脱炭素)化は実現できません。そのためには、無駄な投資を抑え、価値をうまく取引して皆さんのエネルギーの使い方をうまく誘導していく必要があるのです」

「価値評価・取引レイヤー」はそのためにある。

地域の未来像実現への貢献

こうした中、2050年カーボンニュートラル宣言をしている自治体が増えている。

その実現のためには、送配電事業者も一体になって取組むことが必要になってくる。

「例えばその自治体の電力使用量や、その中の再生可能エネルギーの比率、地産地消率などを知った上で、脱炭素を目指すためにはどういうことをやっていかねばならないのかなど、一緒に考えていくことが必要です」

そのために本社にコミュニティサポートインフラ推進グループを設置し、支社以下の推進担当者を増員するなど、体制を強化した。地域の課題を解決し、地域ともに成長していくために、地域の行政やユーザーとより深い繋がりを持つことを目指す。

「それぞれの自治体の事情に応じてやっていくためには、本社主導というより、地域型に移行していかないと、いろいろなニーズに的確に対応できなくなってきます」

図)「地域の未来像実現への貢献」における目指す姿
出典)中部電力パワーグリッド株式会社
図)「地域の未来像実現への貢献」における目指す姿 出典)中部電力パワーグリッド株式会社

脱炭素に向けて、今後も増大する不安定な再生可能エネルギー電源を無駄なく賢く使いきるには、地域のニーズにフィットした、高度な次世代型ネットワークの構築が不可欠だ。そのためには、先に述べた3つのレイヤーが密接に連携する必要がある。

私たちの目には見えない電力ネットワークに今、大きな変革が起こっていることが少しはおわかりいただけただろうか。設備とともに人も地域と深く「つながる」ことで初めて脱炭素社会が実現する。ある意味、日本の社会全体がその知恵を試されているといってもいいだろう。(エネルギーフロントライン編集長・安倍宏行)

提供:中部電力株式会社