東京五輪開幕時の主な社説
【産経】
・明日につながる熱戦望む
/歴史的大会へ悪い流れを断て(23日付)
・世界を変える大会に育て
/選手に静かな声援を送ろう(24日付)
【朝日】
・分断と不信、漂流する祭典(23日付)
【毎日】
・五輪の理念踏みにじった(23日付)
・大会の意義問い直す場に(24日付)
【読売】
・コロナ禍に希望と力届けたい
/安全な大会へ万全の感染対策を(23日付)
・苦境でも輝く選手に声援を(24日付)
【日経】
・東京での開催を五輪再生の出発点に(23日付)
【東京】
・対立と分断を憂える(23日付)
・「民」はどこへ行った(24日付)
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新型コロナウイルスの世界的大流行で1年延期された東京五輪が開幕した。海外からの観客は受け入れず、開閉会式と大半の競技が無観客という異例の大会である。産経や読売はそれでも、選手らの奮闘に期待を込め、前向きに論じたのに対し、朝日や東京は強い失望感を表明した。
産経は「わが国は新型コロナウイルス禍の中でも聖火を消すことなく、熱戦の舞台を整えた。『五輪開催』という最後の一線を守り抜いたことは、日本のみならず世界と五輪史にとって大きな意義がある」と評した。
東京都には4度目の緊急事態宣言が発令された。人々は自粛に疲れ、医療関係者は厳しい勤務が続き、飲食業や観光業は苦境にあえいでいる。「『こんな時にスポーツなんて』との批判を今も聞くが、間違っている。こんな時期だからこそ、必要なのだ。スポーツの底力を選手は見せてほしい」と訴えた。
さらに主役は選手たちだとし「彼らの一挙一動に目を凝(こ)らし、勝者にも敗者にも拍手を送る。そんな心の余裕だけは大事にしたい。選手が存分に力を発揮できる環境を整え、『日本開催でよかった』と思って帰ってもらえるかどうか。大会の成否は、そこにかかっている」と強調した。
読売も「大会運営を巡る数々のトラブルにも見舞われながら、ようやくこの日を迎えた。大会を通じ、逆境の中でも諦めないことや、地道に鍛錬を積み重ねることの大切さを世界の人々に示したい」とし、「政府や組織委は、五輪を機に国内外に感染を広げないことが、成功のカギを握っていると肝に銘じ、対策の見直しを進めねばならない」と注文を付けた。
5月下旬の社説で開催中止を求めた朝日は、「高揚感も祝祭気分もない。とにかく大会が無事に終わってほしい。多くの人に共通する率直で最大の願いではないか」と指摘した。「パンデミック下で五輪を強行する意義を繰り返し問うてきた。だが主催する側から返ってくるのは中身のない美辞麗句ばかりで、人々の間に理解と共感はついに広がらなかった。分断と不信のなかで幕を開ける、異例で異様な五輪である」と断じた。
毎日は「これほど逆風にさらされ、開催を疑問視されたオリンピックは戦争時を除いてなかっただろう」と嘆じ、「コロナは、ナショナリズムと商業主義で肥大化した五輪から『祝祭』という虚飾を剝ぎ取り、実像を浮き彫りにした」との見方を示した。
五輪開催に至るまで、国立競技場のデザイン変更やエンブレムの使用中止、組織委会長の女性蔑視発言での辞任、開会式前日の式演出担当者の解任など、不祥事、混乱が相次ぎ、これらも各紙の論考の対象となった。
日経は「問題が発覚後、世論の批判を受けながらも先送りし、海外の指摘などを機に、やっと解決に動きだす。この間、多くの人が『またか』とあきれたにちがいない。国民の五輪熱が、なかなか高まらなかった一因だろう」との見解を披露した。
朝日は「競技を観戦することは、戦争と平和、差別の根絶、両性の平等、そして幾つもの不祥事によって痛感させられた、この国の人権意識の遅れについて、思いを巡らせる機会ともなろう」と意義を見いだし、東京は「統治機能の不全を思い知らされました。今大会は、国民的な挫折の経験ではないか。私たちは主権者として、国を根本から変えなければと肝に銘じなければなりません」と説いた。
東京五輪は205の国・地域、難民選手団を含め約1万1千人の選手が参加し、17日間、過去最多の33競技で熱戦が繰り広げられる。コロナ禍で行動制限の多い分、競技を見ること、感じることに集中したい。(内畠嗣雅)