聖地日本武道館で行われた柔道の試合を、コロナの影響により自宅でテレビ観戦した。試合運びが荒々しく凶暴になってもおかしくない激しい競技だが、美しく正しく技を決めることで初めて有効となる。日本伝統の観念的なルールが試合を引き締める。力強さとお互いを律する礼儀作法の調和が、闘いを理性の枠に収める神聖な結界を張る。野性と礼儀正しさの入り交じった怖さにひかれ、観戦を決めた。
試合中、選手たちは対戦相手の顔をひたと見据えたまま組み手を始める。相手の顔を見つめながら、どうして脚の動きにまで注意が払えるのか不思議になる。柔道には獲物を捕らえる俊敏な視線と、鷹のように俯瞰(ふかん)する視線の両立が必要らしいが、目を合わせながら闘う姿に相手への誠意を感じる。
女子52キロ級の阿部詩(うた)選手は決勝で、相手に何度も投げ技、寝技を仕掛けるが、決着がつかず、延長戦に突入した。相手に疲れが見え始めたあたりから、一気に猛攻が始まった。精神と肉体を束ねていたタガが、次第に緩み、足もふらつく。