思ふことあり

スポーツジャーナリスト・増田明美 リスク克服への感謝と尊敬

聖火台に聖火が灯され、花火が打ち上げられた=23日、国立競技場(納冨康撮影)
聖火台に聖火が灯され、花火が打ち上げられた=23日、国立競技場(納冨康撮影)

東京五輪の開会式にラジオ中継のゲストとして参加した。延期に対する選手の心の葛藤を描いたり、追悼のパフォーマンスがあったり。コンパクトだけど、心のこもった、あたたかい開会式だと感じた。

入場行進に一番時間をさいたのも、参加した選手への敬意と感謝の気持ちの表れだと思う。聖火リレーのランナーとして、松井秀喜さんに支えられながら登場した長嶋茂雄さんの笑顔に、涙がこぼれた。

予算が大幅に削減され、準備期間も短く、引き受け手がない中、この開会式を作り上げたチームの皆さんに拍手を送りたい。

そして開会式の翌日、競泳会場に池江璃花子さんが登場。女子400メートルリレー予選で力強い泳ぎをみせてくれた。白血病から競技に復帰するまでの努力は想像を絶するものだったはず。池江さんの姿に勇気や元気をいただいた人がどれだけいることだろうか。

ほとんどの会場が無観客での開催だが、選手はブレることなく本番に臨んでいる。パラリンピックの走り幅跳びで日本代表の中西麻耶さんも「これまでやってきたことが無になるわけではない。無観客になって応援がなくなるわけでもない。応援のカタチが変わるだけ。それに応えられるようにベストを尽くします」と話した。

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そんなスポーツの力を信じ、組織委員会、東京都、政府は非現実的なゼロリスクを唱える〝何でも反対派〟に押し流されることなく淡々と準備を進めてきた。相変わらず細かいミスを指摘されることもあるが、思えばこれまでのオリンピックもそうだった。

アトランタではシャトルバスが来ないことがあり、シドニーではレストランで東洋人差別を感じることも。リオデジャネイロは治安の悪さとジカ熱の流行で外出禁止だったし、アテネも北京もロンドンも現地で何かしらの問題に遭遇した。ゼロミスはあり得ない。訪れる選手やメディア関係者も多少の文句は言うが、こんなもんだと分かっているのではないだろうか。

開会式に先立ち、先陣を切って行われたソフトボールで日本は強豪オーストラリアに勝利した。この日、会場となった福島県営あづま球場の気温は37度。選手も大変だが、運営に携わるボランティア、スタッフの皆さん、本当にお疲れさまです。

コロナ禍での不安、不満の矛先がオリンピックに向けられてきた感もある。でも冷静な国民は科学的根拠に基づいて本質を見ているのではないだろうか。サッカーを有観客で実施した宮城県の村井嘉浩知事は勇気があると思った。「選挙よりも復興五輪」という覚悟がみえたから。

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岐阜県中津川市で事前合宿を行った米国レスリングチームが練習場へ移動するバスから撮影した動画が話題になった。コロナ禍で直接の交流ができなかった子供たちが、歩道で星条旗を振って歓迎の気持ちを表していた。あたたかい。

また、選手村の近くにある東京都中央区の豊海小学校では、大会期間中に練習に訪れるブラジルの選手のために、折り鶴で作ったブラジル国旗や応援のメッセージを飾りつけたそうだ。皆で考えて工夫した心のこもった応援だと思う。こんな心の交流が各地で行われている。

東京オリンピック、パラリンピックに参加した人の日本への感謝と尊敬は、きっと閉会式で聖火が消えた後も燃え続けることだろう。

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