【ソウル=時吉達也】北朝鮮が13カ月ぶりに韓国との連絡手段の復旧に応じた。背景には交渉決裂から2年を超えた米朝協議の再開に向けた機運の高まりを受け、対北制裁の緩和に積極的な韓国を利用し交渉を優位に進める狙いがある。ただ、米国は「完全非核化」のゴールについて譲歩する姿勢を示しておらず、南北の接近が非核化協議の進展につながるかは不透明だ。
朝鮮戦争(1950~53年)の休戦協定締結から68年を迎えた27日。「通信回線の復旧は南北(北南)関係の改善と発展に肯定的に作用するだろう」。韓国大統領府と北朝鮮の朝鮮中央通信は同時刻にほぼ同じ文言で論評を出し、「南北協調」を強く打ち出した。
南北関係は2019年の米朝首脳再会談の決裂後、北朝鮮による南北共同連絡事務所の爆破などを経て「極寒期」(韓国紙)に突入していた。
今年に入り、バイデン米新政権が「敵対関係の終結」などに言及した18年の米朝共同声明を踏襲する立場を明らかにするなど、米朝協議再開に前向きな姿勢を示したことに伴い、北朝鮮の対韓国政策にも変化が生じた形だ。
米国に対北制裁緩和を働きかける韓国との関係改善について、韓国・北韓大学院大の梁茂進(ヤン・ムジン)教授は「半島情勢を主導的に管理する自信を得た北朝鮮にとって、対米交渉の選択肢を広げる目的がある」と分析する。
今後は任期終盤の「レガシー(政治的遺産)」作りに取り組む韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と協調し、南北間で「オンラインの首脳会談などに向けた動きが加速する」(梁教授)見通し。新型コロナウイルス禍の国境封鎖で経済の生命線である対中貿易が壊滅状態にある北朝鮮の状況を踏まえ、経済協力や人道支援について議論が進むとみられる。
ただ、韓国が米朝の仲介役として動いた18年当時と異なり、現在は南北交渉が非核化協議に与える影響は限定的だ。バイデン米大統領は南北対話を支持する姿勢を示す一方で、非核化に向けた「道筋の大枠が見えてこない限り、米朝首脳会談は行わない」とも明言。対北交渉を慎重に進める姿勢を強調している。