勇者の物語~「虎番疾風録」番外編~田所龍一(278)

「怪」幕戦 敬遠指示 小林まさかの大暴投

ぼう然とした表情でベンチから出てきた阪神・小林
ぼう然とした表情でベンチから出てきた阪神・小林

時間を1日だけ戻そう。トラ番記者3年目を迎えた筆者は4月3日、横浜スタジアムで開幕戦を迎えていた。阪神の開幕投手はエース小林繁。前日の練習で小林はこう語っていた。

「ボクが20勝へ燃えるのはチームが優勝するため。今年は自信がある。2年連続して2勝しかできなかった4月に5つ勝てば20勝はできる。だから、あしたは勝つ」

その言葉通りの〝熱投〟をみせた。

◇開幕戦 4月3日 横浜スタジアム

阪神 001 000 010=2

大洋 000 000 003x=3

(勝)五月女1勝 〔敗〕小林1敗

(本)真弓①(斎藤明)

阪神は三回、先発の斎藤明から真弓が左翼へ1号ホームラン。八回には右翼二塁打の掛布をおいて2死からラムが中前タイムリーを放ち2―0とリード。小林も八回を終わって2安打6奪三振と完璧に大洋打線を抑えていた。

ところが九回、突如、小林が乱れた。高木豊の投手強襲ヒットと基の遊撃内野安打などで2死一、二塁とされると、田代、ラムに連打され同点。なおも一、三塁のピンチ。このときすでに試合時間は3時間を超え、もう小林に「勝ち」はなかった。試合前から霧のように雨が降り続いていた。

阪神ベンチは続く高木嘉を敬遠の指示。捕手若菜が立つ。そして3球目、小林の手をはなれたボールは若菜のミットを大きく外れるどころか、バックネット直撃の大暴投だ。「敬遠したつもりのタマを若松さんにサヨナラヒットされたことはあるけど、こんな幕切れはないなぁ」。この年からサンケイスポーツの評論家となった江本孟紀もビックリ。

雨で手が滑った? 緊張したのか? 「………」。小林は何も答えず帰りのバスに乗り込んだ。後日、筆者は暴投のわけを聞いた。

「おれはキャッチボールが下手なんだよ。ちゃんと投球するときのようなフォームでないと投げられない。だから、あのときもバランスを崩して…」

そういえば投ゴロを捕手へ投げるような投球フォームで一塁に送球するのをよく見たし、投げずに一塁まで走っていったこともあった。けど、ホンマやろか…。まさに〝怪〟幕戦だった。(敬称略)