住民救済を最優先、首相が決断 黒い雨訴訟上告断念

「黒い雨」訴訟について上告断念の方針を湯崎英彦広島県知事(左)と松井一実広島市長(中央)に伝える菅義偉首相=26日午後、首相官邸(春名中撮影)
「黒い雨」訴訟について上告断念の方針を湯崎英彦広島県知事(左)と松井一実広島市長(中央)に伝える菅義偉首相=26日午後、首相官邸(春名中撮影)

広島への原爆投下直後に降った「黒い雨」をめぐる訴訟で、菅義偉(すが・よしひで)首相は26日、原告全員を被爆者と認めた広島高裁の判決に対し、上告を見送る考えを表明した。厚生労働省には「上告やむなし」との考えが強かったが、首相は原告らが高齢であることなどを踏まえ、住民の救済を最優先した。今後は救済対象の範囲が焦点となる。

「原告84人を政治決断で救済しようと思う。同じ状況の人も救済する。異論はないですね」

首相が26日、官邸で田村憲久厚労相、上川陽子法相にそう告げると、田村氏らは「異論はありません」と応じた。この後、首相は広島県の湯崎英彦知事、広島市の松井一実市長と面会。「連携をして救済に向けて取り組んでいきたい」と伝えると、湯崎、松井両氏は「首相の英断に感謝申し上げたい」と礼を述べた。

県と市は被爆者健康手帳の交付事務を担うため、訴訟の上では被告。ただ、住民救済を重んじ、上告しないことを認めるよう政府側に要請していた。

しかし、厚労省は上告見送りに慎重だった。判決が、黒い雨に直接打たれた場合だけでなく、空気中の放射性物質を吸い込んだことなどによる内部被曝(ひばく)で健康被害の可能性があれば、被爆者と認めるべきだとしたからだ。

厚労省からは「科学的知見に基づいた判決とは言い難い」(幹部)との声が上がり、田村氏は20日の記者会見で「(放射線に関する)他のいろいろな事象に影響する内容とすれば、われわれとしては容認しづらい面がある」と語った。

とはいえ、援護対象区域の拡大を視野に厚労省に設置した有識者検討会では、科学的知見に基づいて議論をしていたものの、早急に結論を見いだすのは困難な状況だった。上告見送りは、こうした状況を総合的に判断した結果といえる。

もっとも、ある関係閣僚は、被爆者健康手帳を交付することに異論はないとしながらも、「判決には不服だ」としており、首相は談話を出すことで、これまでの政府の姿勢との整合性を図りたい考えだ。(坂井広志)

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