書評

『「ポスト・アメリカニズム」の世紀 転換期のキリスト教文明』藤本龍児著 「トランプ後」米国の読み方

『「ポスト・アメリカニズム」の世紀』
『「ポスト・アメリカニズム」の世紀』

2020年のアメリカ合衆国大統領選挙では、世界中のジャーナリストやアメリカ観察者をくぎ付けにし続けたドナルド・トランプは、約7400万票という歴代のどの当選した大統領よりも多くの得票数を得てジョー・バイデンに敗北した。現在、多くの人々がトランプ後のアメリカの姿を想像できないでいる。

しかしトランプ現象が席巻した2016年以来、自らの研究の「答え合わせ」に費やしていた研究者たちも存在してきた。その一人が、アメリカ社会哲学者の藤本龍児であり、本書は、藤本によるアメリカの読み方が開陳されたものである。

アメリカを理解するには、その誕生の経緯を確認する必要がある。アメリカは、1776年にイギリスからの分離・独立を宣言するまでは、イギリス領北アメリカ13植民地であった。それゆえ独立前のアメリカは、国家としてはイギリス王政の一隅であり、アメリカの社会は、約160年にわたり自治を行ってきた。イギリスとフランスによる七年戦争が終結した1763年以降、イギリス王政という国家とアメリカ植民地における社会のあり方に、おそらくは最初から存在していた齟齬(そご)が可視化された。アメリカの独立とは、アメリカの人々が国家を切り離し自分たちが慣れ親しんできた社会を選択した事例に他ならない。

近代ヨーロッパ文明は、中世以来の社会的慣習の最大のものであった宗教と世俗権力との相克を経て形成されたが、アメリカは社会から国家が始まっているのである。それゆえ、キリスト教諸宗派の道徳規範が政治的争点の重要な担い手であり続けた。これはマックス・ヴェーバーの「脱魔術化」という近代の要件では捉えきれないということであり、ヨーロッパ文明とは異なる文明圏を形成しているというべきだろう。そこで展開される政治の特徴は呵責(かしゃく)なき党派対立である。

アメリカ文明が生み出した思考様式をアメリカニズムという。藤本は、このアメリカニズムの変容を「ポスト・アメリカニズム」として論じる。本書は、トランプ後のアメリカを考察する基本的なテキストとなるだろう。(筑摩選書・1980円)

評・石川敬史(帝京大教授)

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