記者発

老舗の窓から歴史を見る 大阪整理部・荒木利宏

花外楼の階段踊り場に掛けられている、木戸孝允が書いた「花外楼」の書(右)と井上馨の書=大阪市中央区の「花外楼」北浜本店(南雲都撮影)
花外楼の階段踊り場に掛けられている、木戸孝允が書いた「花外楼」の書(右)と井上馨の書=大阪市中央区の「花外楼」北浜本店(南雲都撮影)

商都・大阪の中心地、北浜。NHK連続テレビ小説「あさが来た」で脚光を浴びた五代友厚の像が立つ大阪取引所がある街に、明治維新を「つくった」料亭がある。

その名は「花外楼(かがいろう)」。大久保利通や木戸孝允、板垣退助らが顔をそろえ、明治政府の道筋を決めた大阪会議が開かれた歴史的な場所だ。木戸が命名したという。

昔の写真を見ると、土佐堀川に面した3層の建物は重厚で、ここに政財界の大物が夜な夜な集まって会合を重ねていたのだと思うと感慨深い。松下幸之助も青年時代、一度は花外楼の客となって料理を味わいたいという憧れにも似た気持ちを抱いていたと、後に記している。

今年4月から、花外楼に伝わる美術品や歴史を紹介する連載企画(大阪本社版)に参加し、取材を続けている。

今はビルに入居しているが、重厚な雰囲気はそのまま。店内の壁には木戸が揮毫(きごう)した「花外楼」の扁額(へんがく)が飾られている。初めて訪れたときは、緊張というほどではないにせよ、歴史の重さに背筋が伸びる思いがした。店は木戸や伊藤博文、井上馨ら明治の元勲の書をはじめとする貴重な品々を今日まで守り伝えてきた。

北浜には今も銀行や証券会社が多く集まる。大阪取引所は昭和初期に建てられた。円筒型のユニークな外観が特徴的だ。店の周辺を歩くと、福沢諭吉が学んだ適塾や明治の木造園舎が現役の愛珠(あいしゅ)幼稚園、接着剤メーカー「コニシ」ゆかりの旧小西家住宅史料館など、江戸から明治にかけての貴重な建物を目にすることができる。

大阪は現代のビジネス街に、自然と歴史が溶け込んでいる。そんな街の貴重な特徴を声高にはアピールしない。花外楼の女将(おかみ)、徳光正子さんは、店の品々について「店の財産ではなく、大阪の財産。値段がどうとか価値がどうとか、そうした目先の次元を超越した大切なものです」と静かに語る。

北浜に近い道修町(どしょうまち)は江戸時代から薬種問屋が並び、今も製薬会社がひしめく。新型コロナウイルスの国産ワクチン開発に取り組む塩野義製薬は明治の創業、その本社もある。歴史と現代が混然と溶け合う大阪の街の魅力を今後も掘り起こしたい。

【プロフィル】荒木利宏

平成17年入社。神戸総局、姫路支局などを経て、令和元年から大阪本社整理部。現在、関西広域面の企画「花外楼の人・歳時記」を担当中。

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