【話の肖像画】デザイナー・コシノジュンコ(81)(23)大好きな夢見るキューバ - 産経ニュース

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話の肖像画

デザイナー・コシノジュンコ(81)(23)大好きな夢見るキューバ

外国人デザイナーとして初めてキューバでファッションショーを開催。フィナーレではサルサダンサーに支えられ登場した
外国人デザイナーとして初めてキューバでファッションショーを開催。フィナーレではサルサダンサーに支えられ登場した

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《これまでパリ、ニューヨーク、中国、キューバ、ベトナム、ミャンマー―など世界各地でショーを行っている》


パリやNYを除いては当時、発展途上だった社会主義国家で積極的にファッションショーを開催していた。これは、政治的な思想に由来するものではない。ファッションとは文化そのもので、自由の象徴だ。だからこそ、その「波」が訪れていない国に、新しい文化の始まりを提示したかった。中国でのショーで、ファッションの持つ力や可能性に改めて手応えを感じていました。それぞれの国がどんな悲しい過去を抱えていたとしても、その国で独特の伝統的な文化が根付いている。それを守ると同時に、発展させたいという思いがあった。


《最も気に入っている国がキューバだった。音楽、ダンス、街並み―何もかもが肌にあった》


キューバは大好きな国の一つ。よく「危なくないの?」と聞かれますが、「世界一治安がいいわよ」と答えるくらい、人が素晴らしく、よい国です。

キューバは、スペイン統治時代の建物が立ち並び、カラフルな1950年代のアメ車が走っている、クラシカルな雰囲気が漂う街。澄んだ空や太陽の光、海とカラフルな街並みがマッチしていてすてきな光景です。

初めて訪れたのは96(平成8)年3月。知人から「キューバが面白い」と聞きつけ、その年の12月にショーを開催する予定で、下見にいきました。

ところが現地で、仏巨匠デザイナーのピエール・カルダンさんが9月にショーをやると小耳にはさんでしまった。実はカルダンさんには、ベトナムでも中国でも、ショーの開催で先を越されていました。

これまで各国でショーを開くたびに言われてきた「東洋人で初」「女性で初」にはもう飽き飽きしていた。カルダンさんのことは大好きだが、〝二番煎じ〟は嫌だ―。

聞いてしまったからには先は越されまいと、4カ月前倒しして、8月末に開催することを決めました。

ショーは2カ所で開催。1つは、高級キャバレー「トロピカーナ」。もう1カ所は、現地の人に見てもらおうと、市民がカーニバルで集まる「サロン・ロサード」で行った。

どちらの会場も屋外だったのですが、問題は8月のキューバが雨期だったこと。さらに台風の影響で、この世の終わりかと思うくらい、雷と雨が毎日続きました。もう天に祈り続けるしかなかった。

日頃の行いがよかったのか、祈りが通じたのか、ショーの当日だけスカッと晴れた〝キューバらしい〟天気に。

サロン・ロサードのショーでは、キッチュなコレクションを身にまとったモデルたちが、現地ナンバーワンの生バンドの演奏に乗せて、踊りながらランウエーに出ていく。サルサが鳴り響き、オールスタンディングの観客も一斉に踊りだす。大熱狂の中でのショー…なんて自由で楽しい空間なのだろう!

フィナーレでは、サルサのダンサー2人に支えられて、大歓声の中で登場しました。パリコレでは緊張で震えていた脚も、キューバではまったく。本能的にリズムに乗って踊っていた。演出を担当した現地の著名なプロデューサー、サンティアゴ・アルフォンソ氏がかけてくれた「今は夢、明日は歴史」という言葉も忘れられない。

まるで夢を見ているかのような。そんなひと時でした。(聞き手 石橋明日佳)

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