五輪の花形競技の一つ、競泳は24日午後7時から競技が始まる。新型コロナウイルス禍で渡航制限がかかり、主要大会前に行われてきた海外での高地合宿はできなくなった。代わりに日本選手の強化拠点となったのが、長野県東御(とうみ)市の準高地施設と東京・豊洲の低酸素トレーニング施設だ。いずれも東京五輪・パラリンピックを見据えて2019年に誕生。東京五輪での活躍を目指す選手たちを後押ししてきた。
「東御のプールがなければ競泳の強化はあり得なかった。いま落ち着いて、毎日トレーニングできていなければ自信を持って五輪に臨むことはできなかった」
6月中旬、東御市にある国内初の本格的な高地トレーニング用プール「GMOアスリーツパーク湯の丸屋内プール」で強化合宿中だった、競泳日本代表の平井伯昌(のりまさ)ヘッドコーチは感慨を込めた。
同施設は東京五輪・パラリンピックを見据え、標高1750メートルの湯の丸高原に東御市が約13億円をかけて建設。コロナ禍でも厳しい感染対策を徹底した上で選手を受け入れ、4月以降は代表33選手のうち約半数が活用している。
平地より酸素が薄い状態で行う高地トレーニングは、心肺機能向上などの効果が期待される。これまでは標高2000メートルを超える米アリゾナ州フラッグスタッフやスペイン・シエラネバダなどで合宿を経て、五輪に挑む選手が多かった。
湯の丸高原は準高地で身体への負荷は軽いが、より高強度なメニューをこなすことができる。食事面で困ることもなく、東京まで約3時間という立地も選手の負担軽減に一役買っている。通常は約2週間前に下山するのがセオリーだが、この利点を生かして男子400メートル個人メドレーで金メダル候補の瀬戸大也(TEAM DAIYA)は24日の初戦3日前まで山籠もり。直前まで調子を上げてきた。
誘致に携わった同市文化・スポーツ振興課の水間源さんは「この標高を生かせるかは選手とコーチの腕次第。湯の丸から金メダルを生み出してほしい」と期待を寄せる。
五輪選手村にほど近い東京・豊洲にある低酸素トレーニング施設「ASICS Sports Complex TOKYO BAY」では、室内の酸素濃度を調節できる2種類のプールとトレーニングエリアを完備。都心にいながら、気軽に標高2000~3000メートルの高地合宿を想定した練習ができる。19年11月の開設から、競泳をはじめとしたオリパラ計11競技40人の代表選手らが汗を流してきた。
低酸素状態を作る際に発生する酸素を活用した高酸素濃度の部屋は、早期の疲労回復効果も期待できる。9月10日まで東京大会関連施設として活用されるため一般利用はできないが、運営するアシックス・スポーツコンプレックスの松田卓巳社長は「低酸素トレーニングは一般の方の生活習慣病の改善やリハビリなどにも活用できる。トップアスリートだけでなく、五輪後のレガシー(遺産)の一つとなっていければ」と話す。
コロナ禍で世界中のアスリートが異例の調整を強いられる中、〝地の利〟をメダルラッシュにつなげたい。(川峯千尋)