五輪開幕も宙に浮く 12兆円のレガシー効果

23日開幕する東京五輪は大半の会場が無観客となり、当初想定したチケット販売や観客の消費による需要創出は期待できない。ただ、東京五輪・パラリンピック組織委員会が見込む大会の総経費1兆6440億円は既に多くが国内総生産(GDP)に寄与し、損失は限定的だ。むしろ新型コロナウイルス禍前は12兆円超とそろばんを弾いていたレガシー(遺産)効果が今や宙に浮き、多額の経費を無駄にしないかが課題になる。

東京五輪では約97%のセッション(時間帯)を無観客で開催する。予定した900億円のチケット収入は数十億円に激減し、民間エコノミストが1千億円前後と試算した観客の消費もほぼなくなる。全体での損失は千数百億円規模に上りそうだ。

とはいえ、五輪開催で動くお金は組織委が経費で計上した競技場建設やエネルギー・通信インフラの整備など準備期間の支出が大半を占める。なんとか開催にこぎつけたことで、期待した直接的な経済効果はおおむね実現したことになる。

一方、コロナ禍前は東京五輪を契機に訪日外国人客が一層増加し、東京都が国際観光都市として飛躍するイメージが描かれていた。都が平成29年に公表した報告書では、観光需要の拡大や国際ビジネス拠点の形成など、12兆2397億円のレガシー効果を見込んだ。

だが、バラ色の構想はコロナ禍で見直しを迫られた。都は今月21日、競技場を活用したオリンピック・パラリンピックパークの整備や働き方改革などを新たなレガシー構想としてまとめたが、感染対策や入国制限が続くなかで具体的な経済効果は明記しなかった。

第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは「レガシーの活用方法はゼロベースで考え直したほうがいい」と指摘する。例えば、今大会はコロナ禍後では初めて世界中から多数の外国人を受け入れており、入国制限をいち早く緩和するためのルール作りなどに経験を生かせると説明。多額の経費に見合う投資対効果を生み出すため、祭典が終わった後の活用方法を改めて検討組織を立ち上げて議論すべきだと訴える。(田辺裕晶)

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