無観客での開催となった東京五輪の開会式。会場となる国立競技場(東京都新宿区)周辺には23日朝から多くの人が訪れ、記念撮影を楽しむなどして五輪の雰囲気を味わっていた。
午前8時半ごろ。早くも集まり始めた人々がスマートフォンやカメラを片手に撮影を始めた。
北区から2歳の息子ら家族3人で訪れた会社員、安達仁(じん)さん(48)は「会場には入れないが『記念写真を』と思ってきた。家族にとってもいい思い出になればいい」。フェンシングや水泳飛び込みの観戦チケットが当たっていたが、無観客開催となり、「夏休みの計画がパアになってしまった」と残念そうな表情を浮かべた。
大阪市からの出張中に訪れ、記念撮影をしていたスクール運営会社社長の巌正美さん(51)は女子サッカーなどを観戦する予定だった。「競技を生で観戦したかったが、コロナの感染状況などを考えると複雑な気持ちだ」と吐露した。
2台のベビーカーを押し、家族4人で競技場をバックに記念写真を撮っていた千代田区の会社員、高橋亮さん(46)は「昨日のサッカーは幸先よくスタートしたのでこれからの活躍を楽しみにしている。無観客となった以上はせめてテレビで日本の選手を応援したい」と話した。
午前10時ごろ。セミの声が響き渡る中、競技場横の沿道には人だかりができ、集まった人たちは互いに写真を撮り合っていた。航空自衛隊のアクロバット飛行チーム「ブルーインパルス」の登場に備え、場所取りをする人も目立ち始めた。
「前回の東京五輪は白黒テレビで見た記憶がうっすらとある」と話すのは会社員の酒井裕二さん(64)。「本来なら海外から来た人と握手したり、声をかけあったりと交流できたのに…」と残念がる。一方で「反対意見もあるが、自国開催の五輪はきっと人生で最後だし、雰囲気を楽しみたい」と話す。
母親(65)と2人で訪れた会社員の柳川麗績(れお)さん(41)は「開会式はテレビで見れたら。コロナ禍だが、自宅で気分を盛り上げたい」と力を込めた。
ブルーインパルスの飛行へ向け、その後も人は増え続け、午後0時半ごろには身動きが取れない状況に。人混みをかき分けて沿道を歩く人からは「どこなら空いてる?」「もう動けないよ」などの声が上がった。
午後0時40分ごろ、競技場周辺の上空をブルーインパルスが通過すると、「来た!来た!」と叫びながら見物客らがスマートフォンやカメラを空に向けた。歩道は多くの人であふれ、警察官が「車道に出ないで」と何度も注意を呼びかけた。
武蔵野市の大学生、関根希音(きおと)さん(21)は「あまり盛り上がっていない印象だったが、ここにきてオリンピックムードを感じられて、ワクワクしてくる」と声を弾ませた。
群馬県伊勢崎市の中井絹枝さん(71)は「前回東京五輪の時は中学3年生で、ブルーインパルスの飛行や競技をテレビで眺めていた。初めて生で見られて感激だ」と話した。
ビデオカメラで撮影していた無職の戸嶋隆さん(80)は前回東京五輪の時も、五輪マークを描いたブルーインパルスを競技場横の沿道で眺めていた。
57年前は食品製造会社の営業の仕事を早めに終わらせ、ブルーインパルスを見に行ったという戸嶋さん。この日は人生で2度目となる光景に「57年前の景色とリンクし、鮮明に思い出した。今回も見ることができて光栄です」と感慨深そうに話していた。