勇者の物語~「虎番疾風録」番外編~田所龍一(274)

日本一の胴上げ 近鉄と阪急、両選手の手で8度舞う

近鉄・西本幸雄監督の胴上げ、老将の、このさわやかな笑顔。秋の夜に輝いて、幸せな送別の幕が降りた
近鉄・西本幸雄監督の胴上げ、老将の、このさわやかな笑顔。秋の夜に輝いて、幸せな送別の幕が降りた

■勇者の物語(273)

<こんなカードが残っとったんや…〉。10月4日、大阪・森ノ宮の日生球場で前期未消化だった近鉄―阪急のダブルヘダーが行われ、近鉄・西本幸雄の「さよなら試合」にあてられた。

午後6時41分、最後の打者、阪急・藤本が三ゴロに倒れると、スタンドから五色のテープが滝のように投げ込まれた。通算2665試合。〝闘将〟のフィナーレ。照明灯が消され、マウンドに立った西本をスポットライトが照らしだす。

「実に充実した、そしてやりがいのある20年でした。若い血にあふれる選手を預からせてもらって、男冥利に尽きる。ただこの一言です」

「68」番の別れの言葉に地鳴りのような大歓声が起きる。

「本日をもちまして、二度とユニホームを着ることはありません。ファンのみなさま、本当に長い間、ありがとうございました」

近鉄ベンチから鈴木、平野、井本、梨田たちが飛び出し、阪急ベンチからも福本、山田、加藤英ら〝教え子〟たちが花束を持って駆け寄った。みんな泣いていた。

2万5000人、スタンドの「ニ・シ・モ・ト」コールの中、涙を拭いながら場内を一周した西本監督を近鉄と阪急の全選手で胴上げだ。8度宙を舞った。リーグ優勝8度。1度も日本シリーズで勝てなかった〝悲運の将〟の「日本一」の舞いであった。

筆者と西本御大との付き合いは、ここから始まる。勇退後にスポーツニッポンの評論家になった御大と記者席が隣という〝幸運〟に恵まれた。

「一塁走者が走ってバースが打つ。それを〝ヒットエンドラン〟と言うような記者になったらアカンぞ。あれは〝ランエンドヒット〟と言うんや」が最初の教え。

前者は打者はゴロを打ち、走者を確実に進めるのが目的。後者は長打が出れば一気にホームを突く―という、目的がまるで違う作戦。「最近は、ラジオやテレビのアナウンサーや解説者までもが平気で間違うたことを言うとる。嘆かわしい」といつもボヤいていた。

野球記者であるなら、ルールや用語をしっかり勉強せい―ということ。たくさんもらった御大の言葉。筆者の大きな〝財産〟である。(敬称略)

■勇者の物語(275)