ビブリオエッセー

描かれた「真剣師」の世界「盤上の向日葵(ひまわり)」柚月裕子(中公文庫)

賭け将棋で世渡りしている人を真剣師という。竹光でなく真剣で勝負しているというくらいの意味だろうか。将棋好きの私が興味本位で、関連本はないかと探していて、この小説を知った。

調べてみると、大阪の新世界や東京では新宿界隈などを根城にしていたそうだ。時に招かれて地方にも出向き、大勝負を賭けることもあったらしい。本書はその真剣師の世界を題材にしたミステリーである。あまりの面白さに上下巻の文庫本を2日で読みきった。

本編は埼玉県の山中で身元不明の白骨死体が見つかった現場から始まる。同時に、高価な名匠の将棋の駒も見つかった。2人の刑事はこの高級駒の持ち主を探すことで犯人にたどり着こうと全国各地に足を運ぶ。

実はこの小説、序章の段階で容疑者が特定される倒叙形式のミステリーだ。場所は将棋タイトル戦が行われている山形県天童市。将棋の聖地として有名な地だが、刑事が追いかけたのは東大出のエリート棋士、上条桂介だった。

物語は、父親に虐待された桂介の壮絶な少年時代からの生い立ちをたどり、一方で2人の刑事の動きが、過去と現在を行き来しながら展開される。桂介は一人の真剣師と出会う。その過程で真剣師の苛酷で非情な世界が語られる。

この小説を読む前に団鬼六さんが書いた真剣師、小池重明の実録なども読んでいたが、その人柄を彷彿させる人物も登場する。小池は「新宿の殺し屋」の異名をもった伝説の男だ。

柚月さんはこうした将棋ギャンブラーの世界も克明に調べたのだろう。最後のどんでん返しは言わぬが花。松本清張の『砂の器』を盤上に置き換えたような重い人間ドラマだった。

大阪府箕面市 竹中正(73)