新型コロナウイルスの感染拡大で、感染リスクの軽減のため、学校の水泳授業を中止する自治体が増えている。一方で、児童生徒が水に触れる機会が減ることで水難事故防止という側面が見過ごされることを懸念する声も。コロナ禍でプールでの指導ができない中で、専門家が工夫を凝らしながら事故を防ぐ取り組みを続けている。
「浮いて待てー」。今月15日、大阪府富田林市の市立喜志(きし)小学校の体育館で、あおむけに横たわる児童に別の児童が大きな声で呼びかけ、浮輪の代わりになる空のペットボトルを放り投げた。
水難救助の専門家らでつくる「水難学会」(新潟県長岡市)による「ういてまて教室」の一場面だ。本来は、溺れた際の対処法をプールで教えるが、同小は昨年に続いて水泳の授業を中止したため、体育館へと場所を移しての実施となった。
教室では、水難学会の斎藤秀俊会長(長岡技術科学大大学院教授)が子供だけで水辺に近づかないよう注意しつつ、もし溺れたときには、力を抜いてあおむけに浮いた姿勢で救助を待つよう指導。「体いっぱいに空気を吸えば浮かぶ。『助けて』と声を上げると息が抜けて沈んでしまう」などと説明した。同小の徳富豊教諭は「学校の近くにも川があるので事故が心配だった。実体験として学ぶいい機会になった」と意義を強調する。
教室は例年、全国で開催されていたが、昨年はコロナ禍でほぼ中止に。今年は同小のように水泳の授業がなくなったことで、体育館で教室を行う学校も増えているという。
水泳の授業について、スポーツ庁と文部科学省は地域の感染状況を踏まえ、対策を講じた上で実施を検討するよう求めている。しかし、十分な対策を取れないことを理由に授業を見合わせた学校は少なくない。
神戸市教育委員会も5月、市内の小中学校245校全校で水泳授業を中止にした。市教委の担当者は「決定した時点では緊急事態宣言の期間中で、市内の医療機関も逼迫(ひっぱく)していた。複数の学校でクラスター(感染者集団)が発生している状況だった」と理解を求める。
警察庁によると、昨年の水難事故件数は1353件で、4割近い計504件が7~8月に発生し、夏場の事故が圧倒的に多い。また、全体の117件で子供が被害にあっている。今年も5月には香川県丸亀市のため池で、6月には大阪府高槻市の淀川で、いずれも子供が犠牲となる水難事故が起きており、注意が必要だ。
斎藤会長は「多くの子供たちにとって2年連続で水泳の授業がないブランクは非常に大きい」と水泳の授業を学べないことによる水難事故の増加を懸念。水の事故から命を守るため、「水辺ではライフジャケットを着用し、子供と一緒になって遊ぶことで、目を離す瞬間を作らないようにしてほしい」と保護者らに注意を呼び掛ける。(木ノ下めぐみ)