【ソウル=桜井紀雄】韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が東京五輪の開幕直前になって訪日を取りやめた背景には、埋めがたい日本との認識の隔たりがあった。菅義偉首相と対面で初会談する機会を逸したことで、来年5月までの文氏の任期内に日韓関係を修復するのはますます難しくなったといえそうだ。
文氏は当初、五輪に合わせた訪日に強い意欲を示していた。北朝鮮との対話が途絶える中、対話再開のチャンスととらえていたからだ。3月の演説でも「東京五輪は南北や米朝の対話の機会になる」と強調した。
だが、北朝鮮は4月に五輪不参加を表明。訪日に向けた文氏の熱意はそがれたとみられたが、文氏の訪日を前提にした日韓両政府の調整は続けられてきた。文氏は1965年の国交正常化以来、最悪といわれた日韓関係を放置したまま、任期を終えるわけにはいかないと考えたようだ。
ただ、今回の文氏訪日と日韓首脳会談に懸ける思いは、日韓で当初から食い違っていた。菅首相は「外交上、丁寧に対応するのは当然」と述べつつも、日本にとって文氏は来賓の首脳の1人という位置づけで、本格会談は難しい。
韓国メディアによると、韓国側はこれに対し対韓輸出管理厳格化の撤回など、目に見える「成果」を思い描いた。日本側はいわゆる徴用工訴訟で受け入れ可能な解決策を韓国側が示すのが先決だとの立場を貫き、折り合うことはなかった。