聞きたい。

朱野帰子さん 『わたし、定時で帰ります。ライジング』 「生活残業」若者の現実描く

『わたし、定時で帰ります。ライジング』
『わたし、定時で帰ります。ライジング』

テレビドラマ化もされた人気シリーズ3作目。IT企業に勤める東山結衣は、定時に帰ることがモットー。管理職になった結衣は、不要な残業をしたがる若手に向き合うことに―。

1作目が出版されたのは、働き方改革の風が吹く前の平成30年。執筆のきっかけは当時の担当編集者の言葉だ。「私たち氷河期世代が無理をして働くことに、ゆとり世代の担当者が怒っていました。『命をかけて仕事をするのが理解できない』と。その後、自分が出産後に過労になったときに彼女の言葉を思い出しました。自分じゃない方、定時で帰る人を主役にしようと考えました」と明かす。

朱野帰子さん(新潮社撮影)
朱野帰子さん(新潮社撮影)

1作目で長時間労働を、2作目でセクハラ、パワハラを取り上げた。「1作目の頃はタイトルを見ただけで怒る人がいました。書評でも『定時で帰るけれど自分勝手でふまじめな女性ではない』と書かれる。定時退社は仕事に積極的ではないというイメージがありました」と振り返る。

だが、31年4月に働き方改革関連法が施行されると、風向きが変わった。ドラマ化され、米紙ニューヨーク・タイムズにも取り上げられた。3作目となる今作のテーマは「生活残業」だ。

「定時で帰ったら生活できない人がいるという声があった。効率的な働き方をしているのに給料が減るのは変。定時退社と給料の関係を書きたかった」

結衣の婚約者で働くのが好きな種田晃太郎との関係や、社内政治も絡めたエンタメ小説だが、労働者の苦悩に焦点を当てた社会派小説でもある。

働く女性を描いた作品が多い。「同年代の女性を描こうとすると、仕事をしている女性になる。もともと組織や労働の話が好きなんです。仕事そのものではなく、職種を超えたものが描きたい。どんな仕事の人も、そうだよねって思える小説を書いていけたら」(新潮社・1540円)

油原聡子

【プロフィル】朱野帰子

あけの・かえるこ 昭和54年、東京都生まれ。平成21年、『マタタビ潔子の猫魂』で、第4回ダ・ヴィンチ文学賞大賞。主な著書に『海に降る』『対岸の家事』など。