「鬼筆」越後屋のトラ漫遊記

短期集中連載『闘将が虎を抱きしめた夜』第2話「ケーシー・ステンゲルとジャッキー・ロビンソン」

自宅で報道陣と話す星野仙一さん=2001年
自宅で報道陣と話す星野仙一さん=2001年

今ここで、再び闘将・星野仙一を語りたい-。16年ぶりのリーグ優勝を目指す矢野阪神は前半戦84試合を48勝33敗3分けの貯金15という好成績で13年ぶりに首位ターンした。3年連続のAクラスも確実…。かつて15シーズンで最下位10度という暗黒を味わった虎が常に優勝争いに加われるようになった〝起点〟こそ20年前、2001年オフの星野仙一監督の誕生だっただろう。球団史が大転換したあの日、あの時、タイガースに、闘将・星野仙一に、そして私自身の人生に何が起きたのか…。全てを書きつくす短期集中連載『闘将が虎を抱きしめた夜』、第2話は「ケーシー・ステンゲルとジャッキー・ロビンソン」-。

とんとん拍子に進んだ事態

暑い1日だった。もう季節は10月中旬を迎えているというのにワイシャツは汗でびっしょりとぬれていた。場所は名古屋市千種区…。手はず通りに私とサンスポ阪神担当キャップ稲見誠は大きな邸宅の玄関口に立っていた。

ドアを開けると、広いリビングの向こうから「おうっ! こっちに入れ。オイ、冷たいものを出しなさい」と娘さんに指示しながら手招きする闘将・星野仙一さんの姿が見えた。

9月23日に阪神・久万俊二郎オーナーに「阪神が誠心誠意頼めば、中日の監督を退任する星野仙一さんが監督を引き受けてくれるかもしれません」と伝えてから、事態はとんとん拍子に進んでいた。

「それは願ってもない話です。星野さんなら願ってもない人だ」と目を輝かせた久万オーナーは「私は1日で阪神を星野一色にまとめてみせます」と言い切った。まさに言葉通りの敏速な対応だった。3連休明けの阪神電鉄本社で緊急の役員会を招集するや、「野村克也監督退任後は星野仙一氏に阪神タイガース監督招聘(しょうへい)を一本化」していた。

星野仙一さんの野球人生も大きな曲がり角を迎えていた。9月25日には1996年から6シーズン務めた2期目の中日監督を辞任することを発表していた。4年ぶりのBクラス転落、5位に終わった責任をとる形だったが、記者会見では「成績不振が(辞任する)理由のすべてではない。初監督の時は5年、今回は6年。同じ人間が長い間、権力の座に座ることは組織上、好ましくない」と話していた。そして10月2日にはナゴヤドームで退任のセレモニーが行われ、闘将は「私ほど、ドラゴンズファンに愛された男はいないと自負しております」とファンに感謝の気持ちを伝えていた。

心にあった贖罪(しょくざい)の気持ち

話を10月中旬の暑い1日に戻す…。広いリビングルームの左側に大きなフカフカのソファがあり、そこに座ると〝招聘交渉〟は始まった。

「今日は阪神・久万オーナーのお願いを伝えにきました。どうか、来季の阪神監督を引き受けてもらえませんか」

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