新聞に喝!

中国共産党100年から「侵略」隠すメディア 元東京大学史料編纂所教授・酒井信彦

中国共産党創建100年を記念する祝賀大会で、大型スクリーンに映し出された「中国共産党万歳」と叫んで拳を突き上げる習近平国家主席=1日、北京の天安門広場(共同)
中国共産党創建100年を記念する祝賀大会で、大型スクリーンに映し出された「中国共産党万歳」と叫んで拳を突き上げる習近平国家主席=1日、北京の天安門広場(共同)

今年は中国共産党の創立100年ということで、それに関する記事が新聞にも見かけられるようになった。例えばその一つに、朝日新聞6月20日の大型記事があり、上欄には、「中国と共産党をめぐる主な出来事」という年表がある。この記事の本文にも年表にも、中華人民共和国の歴史において、決定的に重大な事実が欠落している。それは内蒙古(南モンゴル)、新疆(しんきょう)ウイグル(東トルキスタン)、そして本来のチベットなど、中国領土の半分以上にも及ぶ地域の、軍事力による併合である。

軍事力による併合ということは、単なる人権問題ではない。深刻な人権問題は、全体主義国家の中国全土に存在するのであって、モンゴル・ウイグル・チベットに限った話ではない。それは中国人による他民族の土地に対する、侵略問題なのであり、モンゴル人・ウイグル人・チベット人からすれば、民族独立問題に他ならない。

そもそも北モンゴルが独立国として存在しているのに、南モンゴルが中国に併合されているのは、まったく理屈に合わない。旧ソ連領であった、中央アジア5カ国は、西トルキスタンだが、ソ連解体によって独立を遂げたのだから、東トルキスタンであるウイグルも、当然独立すべきである。チベットは清帝国時代、間接統治が行われていたが、辛亥革命で清帝国が崩壊した段階で、独立を遂げていた。しかし中華人民共和国に、軍事併合されて独立を喪失した。

歴史の進歩の目安には、民主化と民族独立がある。独立としては、第一次大戦の結果、中央ヨーロッパに一挙に8つの独立国が誕生した。第二次大戦の結果、アジア・アフリカに多数の独立国が生まれて、植民地支配体制が崩壊した。しかしこの民族独立の時代に、歴史の動きと全く逆行して、中華人民共和国は、侵略国家として成立した。

この記事には、「アヘン戦争からの約1世紀を共産党は『百年の国恥』と呼ぶ。歴史の屈辱をそそぐという『大義』が習近平国家主席と共産党を駆り立てていることは、急速に国防力を高め、外国の批判を『内政干渉だ』とはね返す今日の政権の姿にも表れている」と述べられている。

しかしその中国が他民族の土地を侵略して、これらの民族に、この上ない屈辱を与え続けている。しかも歴史の屈辱を口実にして、侵略行為を積み重ねている。こんな単純な事実に、目を瞑(つむ)っているメディアはもちろん、国際社会全体も腐敗堕落している。

【プロフィル】酒井信彦

さかい・のぶひこ 昭和18年、川崎市生まれ。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東京大学史料編纂(へんさん)所で『大日本史料』の編纂に従事。