ロシアで、第二次世界大戦におけるソ連とナチス・ドイツの行動を同一視することを禁ずる新法が成立した。
プーチン大統領が制定を主導した新法は、ソ連が欧州をナチス支配から解放したという見方の否定も禁じた。
背景には、欧州でソ連や共産主義体制による戦争犯罪、圧政を問題視する歴史見直しの動きが広がってきたことへのプーチン政権の反発がある。
今年はナチス・ドイツがソ連に侵攻してから80年に当たる。プーチン政権は、ソ連を「ファシズム(ナチズム)からの解放者」「偉大な戦勝国」として称(たた)える国定史観の徹底を図る構えだ。
この新法により教育現場やメディア、学界などでの自由な議論、研究は封じられる。ロシアをソ連共産党治下の全体主義時代に逆戻りさせるもので容認できない。
先の大戦をめぐる歴史を振り返れば、ソ連は解放者とはいえず、むしろ新たな圧政者、侵略者であったことがわかる。
スターリン独裁のソ連とナチス・ドイツは1939年8月23日の不可侵条約に伴う秘密議定書でポーランド分割や、ソ連によるバルト三国などの併合を決めた。これに基づき独ソ両軍は同年9月、ポーランドに侵攻し、分割した。
ソ連は同年11月にはフィンランドへも侵攻し、侵略行為を理由に国際連盟から除名された。翌40年6月にはバルト三国へ侵攻し、その後併合した。占領した東欧諸国などで圧政を布(し)き、共産化を強制した。ソ連が解放者として単純に称えられるのはおかしい。
欧州連合(EU)の欧州議会は2019年9月、「世界征服を目標とする2つの全体主義国家が密約を交わし、独立諸国の領土を分割したことが大戦に道を開いた」とする決議を採択した。この決議はEU諸国の政府に「スターリニズム独裁体制の犯罪への認識を高め、法的調査を行う喫緊の必要性がある」と促した。
旧共産圏のポーランド、ハンガリー、チェコやソ連が併合したバルト三国では、ソ連の戦争責任や共産主義の圧政と人権弾圧を告発する博物館が新設されている。
プーチン政権の歴史認識は、日本の北方領土を「大戦の戦利品」として不法占拠を正当化する姿勢につながっている。日本は欧州とともに、プーチン政権の身勝手な行動を許してはならない。