書評

『琥珀の夏』辻村深月著 ハードで温かな友情物語

『琥珀の夏』
『琥珀の夏』

辻村深月は、ストーリーテラー(物語の筋立てが巧みな作家)である。本書を読んで、改めてそう感じた。

近藤法子(のりこ)は、40歳の弁護士だ。同業の夫との間に生まれた娘の藍子は、もうすぐ3歳になるが、保育園が決まらず困っている。そんな彼女に、新たな依頼が舞い込んだ。

かつて「ミライの学校」という宗教団体が本部を構えていた場所で、女児の白骨が発見された。その白骨が、母親に連れられて「ミライの学校」に入った孫娘かもしれないと思った祖父母が、調べてほしいと頼んできたのだ。これを引き受けた法子。しかし、少女時代に「ミライの学校」の夏の「学び舎留学」に参加していた彼女は女児の白骨が、そのときに仲良くなったミカという少女ではないかと、ひそかに思うのだった。

物語は過去から始まる。まず、両親と引き離され、「ミライの学校」で暮らす、幼いミカの様子が描かれる。続けて小学4年生の夏、「ミライの学校」で1週間を過ごす法子と、ミカの出会いが綴(つづ)られていく。子供らしい悲しみや疎外感を抱えた少女の感情を、作者は鮮やかに表現。読んでいると、自分の子供時代のあれこれを思い出して、複雑な気持ちになった。

そして現代のパートでは、過去の記憶を持て余しながら、法子が調査を進めていく。中盤を過ぎると、立て続けに意外な事実が明らかになり、ページをめくるスピードが加速する。先の見えない物語に、夢中になってしまうのだ。

一方、ストーリーの進行に伴い、法子の心は大きく揺れる。「ミライの学校」の関係者に覚える違和感。特殊な環境で生きてきた人を理解できるのかという疑問。作者が巧みなのは、そこに娘の保育園が決まらないことで、精神的に追い詰められる法子自身のエピソードを加えたことである。娘に感情を爆発させた彼女は、「ミライの学校」の人々を特別視していたことが間違いだと気づくのだ。

本書の内容はハードで、いろいろ考えさせられるが、読後感は温かだ。最終的に、友情物語になっているからだろう。気持ちよく本を閉じさせてくれる着地点が、作品の魅力をさらに際立たせているのである。(文芸春秋・1980円)

評・細谷正充(文芸評論家)