勇者の物語~「虎番疾風録」番外編~田所龍一(271)

ヒデさんの秘策 江夏を「だまし」サヨナラ勝ち

サヨナラヒットを放った加藤(中)の右腕を上げて喜ぶ上田監督(左)
サヨナラヒットを放った加藤(中)の右腕を上げて喜ぶ上田監督(左)

■勇者の物語(270)

「あと3つ勝ったらええんや!」とベンチで大声を出していた加藤英は翌日の試合前、担当記者たちに囲まれてこんな話をしていた。

「江夏はきのう『打者とはだまし合いや。それが楽しい』と言うてたんやて。それなら、オレかてだましたるがな」

江夏をどうだますのか…記者たちは首をひねった。

◇9月12日 西宮球場

日本ハム 000 000 020 0=2

阪 急 000 020 000 1=3

(勝)今井18勝11敗 〔敗〕高橋一12勝6敗

試合は熱戦となった。五回、2死一、二塁から簑田が右中間へ二塁打。阪急が2点を先制すれば日本ハムは八回、島田誠、高代、ソレイタが3連打して1点。稲葉に代わった今井から柏原が中前へタイムリーを放ち同点。

そして延長十回裏、阪急は先頭の簑田が左中間二塁打。島谷が送って1死三塁で加藤英。ここで日本ハムベンチは高橋一に代えて江夏をマウンドに送った。

「よし、出てきよった」。加藤英はこの時のために〝秘策〟を用意していた。

【1球目】内角ボール

【2球目】カーブをファウル

【3球目】フォークボール

加藤英は江夏のストレートを待っていた。ところが、このフォークボールを〝待ってました〟という顔で打ちにゆき、わざと三塁方向へのファウルにしたのである。「江夏の顔をみて〝よっしゃ、掛かった〟と思った」という。その読み通り―。

【4球目】内角低めのストレート

加藤英はさからわずにバットを出した。打球は遊撃手・高代の頭を越える中前タイムリー。三塁から簑田が手を叩きながらサヨナラのホームを踏んだ。

「気持ちええわ。これやから野球はおもしろい」

上田監督に右腕を持ち上げられ、ファンの大歓声に応えるヒデさんはまさに千両役者。これで再びゲーム差は「0・5」。

加藤と江夏―。2人とも昭和23年5月生まれ(江夏が15日、加藤24日)の同い年。江夏は大阪学院高から阪神へ。加藤英はPL学園高―松下電器から阪急へ。リーグは違えど2人には浅からぬ〝因縁〟があった。(敬称略)

■勇者の物語(272)