【ビブリオエッセー】ほろ苦いアル中人生振り返る「酔いがさめたら、うちに帰ろう。」鴨志田穣(講談社文庫、スターツ出版) - 産経ニュース

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ビブリオエッセー

ほろ苦いアル中人生振り返る「酔いがさめたら、うちに帰ろう。」鴨志田穣(講談社文庫、スターツ出版)

鴨志田穣(ゆたか)さん。その名は知らなくても奥様だった漫画家、西原理恵子さんをご存じの方は多いだろう。西原さんの家族漫画『毎日かあさん』では離婚したことについてさらっと描かれていたが、愉快で楽しいほのぼの漫画の裏には、壮絶な事実があったのだ。

鴨志田さんは重篤な「アルコール依存症」患者だった。家ではモンスターと化し、妻子を苦しめていた。そしてアルコールが原因で離婚。『酔いがさめたら…』は離婚後から始まる「僕」の回想である。

母親のいる実家に戻っても、やはり朝から晩まで酒におぼれる日々。「よし、酒は今日でお終いだ」「素面のままで、妻と子どもたちに会うんだ」。何度も何度も断酒を誓うが、どうしてもやめられない。

結局、心身が限界に至る。転倒、骨折、血尿に血便、吐血。そして恐ろしい幻覚幻聴。精神科の病院でアルコール依存症患者の病棟に入院することになった。

これまでも入退院を繰り返したが、そこで訳ありの患者たちに出会う。私には暗いイメージがあった専門病棟だが出てくる面々はユニークな人たちばかり。そして、すべてをさらけ出さなければ治らないということを知る。情けなくも悲しい、ダメな人生のすべてを。

鴨志田さんは戦場カメラマンだった。紛争地を巡り、悲惨な現場を体験した。いつしか酒量は増え、気づけば後戻りできなくなっていた。やがて癌が見つかり、余命を宣告される。

最後に。鴨志田さんは切望していた「うち」へ、妻子のもとへ帰ることになる。西原さんは目覚めた鴨志田さんを「ハスの花が咲いたような」顔で励ました。

ようやく酔いはさめたのだ。

大阪府豊中市 小林恵子(42)