【話の肖像画】デザイナー・コシノジュンコ(81)(15)最大の危機に「天の助けだ」 - 産経ニュース

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デザイナー・コシノジュンコ(81)(15)最大の危機に「天の助けだ」

20~30代は仕事も軌道に乗り、海外を飛び回る生活を送っていた
20~30代は仕事も軌道に乗り、海外を飛び回る生活を送っていた

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《人生で最大の危機―。それは、3千万円にもおよぶ多額の詐欺事件に巻き込まれたことだった》


1971(昭和46)年、32歳のときです。24歳で初めてパリに行って以降、20~30代は安いエアラインを見つけてはすぐ海外にいく生活を送っていました。

この時も、休暇でハワイに滞在している際に事件が起きたのです。

当時、会社の経理をすべて任せていた男性に会社名義で融通手形を振り出されてしまった。金額は3千万円。今では1億円を超す価値があったかもしれない金額です。

寝耳に水の出来事。ちょっと気を許してしまっていたのかもしれません。信用しきって通帳や印鑑は男性に預けてしまっていた。お金を用意できなければ、不渡りとなってしまい、店も何もかも失う―。当たり前だけれど、こんな経験は生まれて初めてでした。

母親や友人、知人…とにかく思い当たる人、全員に借金をお願いした。ハワイから帰国して1週間で、なんとか2700万円まではかき集めることができた。それでもあと300万円がどうしても足りない。教会で祈るしか、もうアイデアがなかったのです。


《あさってまでに300万円…。どう頑張ってもこれ以上捻出できない、そう考えていたときに、奇跡が起こった》


「あさって」といっても、この日は土曜日の夜。月曜日にはお金をそろえなければならない。日曜日に何ができるというのだろう。もう手の施しようがない、お手上げの状態でした。

こうなると「どうにでもなれ」と居直ってしまって。もうお店をやめてしまってもいいかもしれないな、と思うくらい、諦めの境地にいた。

教会からブティックに戻り、ぼーっと座っていると、扉が開いた。

「元気? あなた偉いね、若いのにこんな時間まで働いて」

ブティックが入るビルのオーナーがやってきたのだ。今まで、めったに店には来たことがなかった人物が、なぜ。

「偉くなんかないです。私、ここを出るかもしれません」

「なんで?」

「実は…」

みっともなかったけれど、300万円が足りないことを話してしまった。口からどんどん言葉が出てきたのだ。

すると、「300万円? 僕があげようか」とオーナーがいうのです。

「僕はあなたのことを見ていると、子供を見ているみたいでね。もし子供がいたら相当お金がかかっただろうから。だから返さなくていいよ」。そういって小切手を書いてくれたのだ。

天からの助けだと思った。教会から戻ってきて、ほんの30分くらいの出来事。驚くことに、一気に解決してしまったのです。

早くからお金の苦労をしたことがなくて、あまりにも無頓着だった。神様が私に与えた試練だったのかもしれません。この経験は、教訓として一生忘れない。人間はなにかひとつ大きな経験をしていると強いです。

あのときに倒産していたら、その後の人生はどうなっていたでしょうか。そこから長い間、お店を続けることができたわけですから。

頑張っていたら、奇跡は起こる。神様はちゃんと見てくれているのだ、と思いました。(聞き手 石橋明日佳)

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