♪ハァー あの広場で ながめた月が…。1964年の東京オリンピックに向けて作られた東京五輪音頭を私は当初、完全に聞き違えていた。正しい歌詞はもちろん「あの日ローマで ながめた月が」である。
今あらためて考えてみると、大阪で生まれ育った私にとって「音頭」と「広場」とは紛れもない縁語であった。お盆の頃になると処々方々、広場という広場には盆踊りの櫓(やぐら)が組まれ、大阪は河内地方に発祥する河内音頭が夜遅くまで延々と空に響きわたった。東京五輪音頭を聞いて見知らぬローマではなく、町内の広場の盆踊り風景をつい連想してしまったのも、それだけ五輪音頭が盆踊り唄としても秀逸だったということだろう。振り付けも、盆踊りの伝統的な形態とされる「輪踊り」を踏まえていたような気がする。
東京に移り住んで十余年を経たが、盆踊りとなると血が騒ぐ癖(へき)は今も変わっておらず、毎年8月末に墨田区の錦糸町で開かれる「河内音頭大盆踊り」には欠かさず馳(は)せ参じてきた(コロナ禍で中止された昨年に続き、今年も既に中止が決まっている)。昭和57年に作家の朝倉喬司らによって東京に種をまかれた河内音頭は、現在では会場が本場さながらの賑(にぎ)わいを見せるまでに根を下ろしている。