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葛城奈海 継承したい樋口季一郎中将の思い

満州国ハルビン特務機関長時代、ソ満国境で約2万人のユダヤ人をナチスの迫害から救ったとされ、第5方面軍司令官だった昭和20年、北海道をソ連の侵攻から守った樋口季一郎中将(1888~1970年)をご存じだろうか?

ユダヤ人を救ったとして有名なリトアニアの杉原千畝領事代理が助けたのは約6千人。スピルバーグ監督の映画『シンドラーのリスト』で知られるシンドラーは約1200人。それらをはるかに上回る功績を残した樋口の名は、ユダヤ民族基金がユダヤ民族に貢献した人を記した「ゴールデンブック」に載っているが、日本ではほとんど知られてこなかった。

その偉業を顕彰する銅像を建立しようと、樋口季一郎中将顕彰会設立記念シンポジウムが9日、憲政記念館で行われた。

パネリストの小名木善行氏からは、樋口が「政治問題ではなく人道上の問題」としてユダヤ人を救った功績などが簡潔に示され、江崎道朗氏が明かしたソ連の秘密工作の実態からは、樋口が守ったのは北海道のみならず日本そのものであることを実感させられた。

大正8(1919)年、第一次世界大戦後のパリ講和会議において、日本は世界に先駆けて人種差別撤廃を説いた。その源には「八紘為宇(はっこういう)」、つまり「天の下に一つの家のような社会を築こう」という建国の理念から脈々と流れる日本の精神があることは想像に難くない。顕彰会会長で樋口中将の孫である樋口隆一氏が上梓(じょうし)した『陸軍中将樋口季一郎の遺訓』には、玩具屋のユダヤ人老店主の言葉が紹介されている。「日本の天皇こそメシア(救世主)だ。何故なら、日本ほど人種的偏見のない民族はない」

こうした先人たちからバトンを託され今を生きる私たちが、人道的に塗炭(とたん)の苦しみを味わっている人々の存在を知りながら見過ごすことはあってはならない。新疆(しんきょう)ウイグル自治区などでの中国当局による人権侵害行為の即時停止を求める国会決議案に反対した国会議員は恥を知るべきであろう。

日本は旗幟(きし)鮮明にすべきだ。具体的行動をとることこそが、樋口中将をはじめとする先人たちの思いを真に受け継ぎ、顕彰することになると私は思う。

【プロフィル】葛城奈海

かつらぎ・なみ やおよろずの森代表、防人と歩む会会長、ジャーナリスト、俳優。昭和45年、東京都出身。東京大農学部卒。自然環境問題・安全保障問題に取り組む。予備役ブルーリボンの会幹事長。近著に『戦うことは「悪」ですか』(扶桑社)。

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