主張

熱海の行方不明者 実名発表の効用を見直せ

静岡県熱海市伊豆山地区の大規模な土石流被害では、今も懸命の捜索活動が続いている。

当初被害の全容が分からない中、静岡県と熱海市が不明者名簿を公表したことに改めて注目したい。多くの情報が寄せられ、住民の安否確認につながった。

伊豆山地区の土石流は今月3日に発生した。大量の土砂に、多くの家屋が巻き込まれ、被害の全容把握は困難を極めた。行方不明者の名簿が公表されたのは発生から3日目だった。

県と市は住民基本台帳に基づいて所在確認を進め、5日夜の時点で連絡が取れなかった64人の氏名を公表した。報道を通じて多くの情報が寄せられ、翌6日夜までに計44人の無事が確認できた。

熱海市の斉藤栄市長は名簿の公表について「できるだけ早く正確な情報を提供したことは捜索にプラスになる」と語っていた。

氏名は捜索の出発点である。誰が不明者か分からないままでは捜索活動も進まない。

災害時の被害者や行方不明者らの氏名公表は自治体に判断が任され、個人情報、プライバシー保護などを理由に躊躇(ちゅうちょ)するケースが少なくない。今回も情報精査などを理由に静岡県の担当者が「5日中の公表を見送る」と説明した後、斉藤市長や難波喬司副知事の指示で公表に踏み切った経緯がある。その判断を支持したい。

過去には、平成27年に茨城県常総市の鬼怒川の堤防が決壊した水害で自治体から行方不明者の人数だけが公表され、確認作業に手間取り、生存が確認された後も捜索が続けられた例がある。

一方で30年の西日本豪雨では、岡山県が不明者の氏名を公表し、生存者の確認と効率的な捜索につながった。

全国知事会は今年6月に災害時の死者や行方不明者の氏名公表に関する指針を示した。不明者の氏名公表について、効率的、効果的な救助活動の確保のほか、不確実情報による家族らの混乱を防ぐなど公益性があると指摘した。

犠牲者の氏名公表についても国民の知る権利に応え、災害の教訓を後世に残すことにつながるとの考えを示している。

プライバシーへの配慮に注意を払うことは必要だが、匿名社会では、防災上必要な地域の名簿づくりもままならない。実名の重さを再認識したい。

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