勇者の物語~「虎番疾風録」番外編~田所龍一(270)

後期の天王山 頼もしい「助っ人」 江夏節も絶好調

千両役者の江夏、ぐいぐい力で阪急打線を捻じ伏せた
千両役者の江夏、ぐいぐい力で阪急打線を捻じ伏せた

■勇者の物語(269)

昭和56年シーズン後期は阪急、ロッテ、日本ハムの三つどもえの優勝争いとなった。岡部、間柴、木田の3本柱に江夏という抑えの〝守護神〟を得た日本ハムが抜け出し、阪急がそれを追う。

9月11日、「首位」日本ハムに0・5ゲーム差と迫った阪急との〝天王山〟4連戦が始まった。

◇9月11日 西宮球場

日本ハム 200 201 204=11

阪 急 100 021 000=4

(勝)岡部11勝2敗 〔敗〕山田11勝11敗5S

(S)江夏3勝6敗22S

(本)ソレイタ(40)(山田)福本⑭(岡部)岡持①(関口)

阪急はエース山田が打ち込まれ、六回1死一、二塁、90球でマウンドを降りた。一方、日本ハムは7―4と3点リードの七回無死一塁で江夏を投入した。試合前、阪急の練習を見ながら江夏はこんな話をしていた。

「阪急との勝負はおもしろい。他のチームとちごて高井や加藤、島谷らベテランがぎょうさんおる。若い選手ならどんなタマを投げても向かってくるだけやが、ベテランは投球を読んでくる。頭と頭の勝負。だましたり、だまされたり…わしらのトシになったら、それが唯一の楽しみなんや」

いきなり簑田に死球。だが、動じない。島谷を外角速球で二ゴロ併殺に打ち取ると、続く加藤英を空振り三振。

八回、先頭のマルカーノに中越え二塁打されたが、ケージ、代打・高井、石嶺を3者連続三振。まさに楽しみながらの投球だ。

当時、江夏は『優勝請負人』と呼ばれていた。広島での活躍から付けられた。球団創立8年目で初優勝を狙う日本ハムにとっては頼もしい〝助っ人〟だ。

「優勝? そう簡単にできるもんやない。ワシかて10年かかって初めてうまいビールが飲めたんや。ウチはもっと〝産みの苦しみ〟を味わわなイカンと思う。陣痛が大きいほど、生まれてくる赤ん坊が可愛い―というやろ」

〝江夏節〟も絶好調。これで阪急とのゲーム差は1・5。

「なにをショボクレてんねん。まだ1敗しただけや。あと3つ勝ったらええんや!」

暗くなった阪急ベンチで加藤英の大きな声が響いた。(敬称略)

■勇者の物語(271)