「書きたい時代がいっぱい」直木賞の澤田瞳子さん

直木賞受賞が決まり、会見で喜びを語る澤田瞳子さん=14日、東京都千代田区(日本文学振興会提供)
直木賞受賞が決まり、会見で喜びを語る澤田瞳子さん=14日、東京都千代田区(日本文学振興会提供)

作家デビューから10年あまり、5度目で直木賞を射止めた。「まだ、ぽかーんとしています」。14日に行われた会見での最初の言葉だった。「今まで落選が続くことに慣れていたので、実感がわかないんです」

作品は、不世出の絵師・河鍋暁斎(かわなべ・きょうさい=1831~89年)の娘として生まれ、同じ道を歩んだ、とよ(暁翠、1868~1935年)の人生に光を当てた。

「暁斎という天才絵師をそのまま描いてもつまらないので、その子供や周辺の人物が、何を求めて生きたのかに迫りたかった」

自身も、作家の母(澤田ふじ子さん)を持つ似た境遇。「たまたまという感じで、特に意識していないですね」と話す。

作中、とよは5歳で父から絵の手ほどきを受け、22歳で父を亡くし、200人を超す弟子たち河鍋一門の未来が、その肩にかかってくる。偉大な父の壁、絵師である腹違いの兄・周三郎(暁雲)との確執、結婚生活の破綻や子育てなど、波乱の人生が描き出される。

取材や資料などから立ち上ってきた、とよの我慢強い人物像。「真面目で芯があり、美人画などの作品の中に、その強い精神力や胆力が感じられました」

平成22年、奈良時代が舞台の「孤鷹(こよう)の天」でデビュー。大学院で研究した奈良期の仏教制度史などの専門知識を生かし、古代ものを得意とする。江戸期の天才絵師を主人公とした「若冲(じゃくちゅう)」、奈良時代のパンデミックを描いた「火定(かじょう)」などが直木賞候補となった。「書きたい時代がいっぱいあって、中世や戦国、江戸時代、現代ももうちょっと掘りたい。欲張りなんです」(横山由紀子)