勇者の物語~「虎番疾風録」番外編~田所龍一(268)

愚痴ちゃうのん? 「ベンチがアホ」発言江本否定せず

阪神・江本孟紀投手。「ベンチがアホやから野球ができん…」とグラブを投げつけた
阪神・江本孟紀投手。「ベンチがアホやから野球ができん…」とグラブを投げつけた

ベンチから江本が出てきた。筆者は小走りで追いかけながら「あのう…」と2度声をかけたが返事はなし。そのまま関係者入り口の中へ。〈まぁええか〉と江本の背中を見た。その時である。

「ベンチがアホやから、野球がでけへんわ!」

江本のこの発言を〝生〟で聞いたのは、筆者と一緒に入り口にいた夕刊紙、大阪スポーツの先輩記者との2人だけ。

「おい、いま江本、ベンチがアホやから―と言うたよな?」とニコッと笑って記者席へ飛んでいった。イヤーな胸騒ぎを覚えた。各社の記者もやってきた。「おい、エモやん、何か言うてたか?」。筆者は例の発言とその状況を正確に伝えた。そしてキャップへ報告した。

「また、そんなこと言うたんか。けど、状況からみて質問に答えての発言やない。エモがいつも言うとる愚痴や。字にせんでええやろ」

「いやぁ、それが…。大スポもこの発言を聞いてるんです。ニコッとしてたし記事にすると思います」

「まずいな。愚痴とはいえ、こんな記事が出たら、エモはもう終わりやぞ。アカン、なんとかしたらな」

すぐに各社のキャップに呼び掛けた。江本をもう一度呼び出し、発言の真意を確かめることになった。冷静になった今なら、当然この「発言」を否定する。それならいつもの「愚痴」として処理できる。みんな江本が好きで守りたかった。

会見が始まった。筆者も肉声を聞いたということで同席した。江本の表情は穏やかになっている。

「お前が通路で〝ベンチがアホやから〟と言うたと報告があったんやが、ほんまにそんなこと言うたんか?」

〈エモさん、「言うてない」と言うてや〉。祈るような気持ちで江本の顔を見た。

「あぁ、言うたよ」

「けど、質問に答えたわけやないやろ。龍一も〝独り言〟やと言うてた」

「そらちゃう。どんな言い方にせよ、オレが言うたことは事実や」

「エモよ、格好つけんでええ。お前、それがどういう意味か、分かって言うてるんか? 公式に首脳陣を批判したことになるし、騒動になるぞ」

〈そうですよ、エモさん。罰金では済まなくなるよ〉

「あぁ、わかってる」(敬称略)